60代でNISAを始めるのはNG?知っておきたい2つの注意点と資産運用のポイント
2024年から新たにスタートした新NISAは、非課税保有期間や投資可能期間の制限がなくなったことで、60代以降の人も利用しやすい制度に生まれ変わっています。
そのため「60代でNISAを始めても問題ない?」「60代から資産運用は遅い?」など、60代以降に資産運用を始めることを検討している人も多いかもしれません。
しかし、20代や30代と比較して充分な運用期間を確保できない60代は、運用中に思わぬリスクが生じる可能性もあります。
60代からの運用は、NISAだけを利用するのではなく、手元の資金を減らさない運用を心がけ、安定資産にも分散投資することが必要です。
本記事では60代からNISAを始めるべきか、定年後に資産運用をするならどうすれば良いか悩んでいる人に向けて、資産運用のポイントを投資のプロがわかりやすく解説します。
- 60代でNISAを始める際の注意点は「運用年数を十分に確保できないためリスクが高くなる」「積極的な運用を行いにくい」
- 60代はNISAだけに頼らず、さまざまな金融商品を組み合わせて安定的な運用を目指すことが大切
60代でNISAを始める時の2大注意点
60代でNISAを始めても問題はありませんが、以下の2点について、あらかじめ理解しておくことが大切です。
①長期積立を行ううえで運用年数を充分に確保できない
NISAは長期の積立投資に適した非課税制度です。長期運用はリスクを低減させる効果があるため、運用する時は、できる限り長期積立投資を目指すのが望ましいとされています。
当然ながら、長い運用年数が確保できる若いうちから始める方が有利で、尻上がりに高まる複利効果を得やすくなります。
一方、60代からNISAを始める場合は、運用年数を充分に確保することができないため、元本割れのリスクが高まるのがデメリットです。
60代が資産を減らさず、安定的な運用を行うには、どのような商品を選ぶかをしっかり考えて資産形成を行う必要があるでしょう。
②収入の減少で積極的な運用がしにくい
60代になると、退職して年金生活に入る人もいれば、再雇用制度などで仕事を継続する人もいます。どちらにしても、収入は現役時代より少なくなる傾向にあり、老後生活を目前にして生活への不安が増しやすくなる時です。
そのせいか、将来の蓄えを少しでも増やそうと、リスクの高い金融商品で一括投資をする人もいますが、これはおすすめしにくい投資方法です。
短期間の一括投資は、市況の変動などによる元本割れの可能性が高くなります。大きな損失が生じたとしても、長期にわたって運用を継続すると回復することもありますが、60代以降の運用は長期運用が徐々に難しくなります。
年金生活であるがゆえ、追加の投資もしにくく、損切りなどの判断を迫られる場合もあるかもしれません。
資産を減らすことがないように、金融商品の種類や投資方法は慎重に検討するようにしましょう。
60代はNISAのみでお金を増やすのはNG
NISAは投資で得た利益が非課税になるメリットがありますが、このメリットは上場株式や投資信託など、リスク性商品に投資をして得られるものです。
そのため、リスクが大きい分、利益が増える可能性は高くなりますが、元本割れの可能性も高くなることは覚えておく必要があるでしょう。
元本割れなどのリスクを抑えるためには、できるだけ長く運用することが必要になります。
60代は運用期間が限られていることがデメリットではありますが、NISAのみにこだわらず、さまざまな金融商品を組み合わせながら、安定的な運用を目指すことが大切です。
あらためて知っておきたい60代以降のお金事情
60代以降、生活をするうえでどのくらいお金がかかるのでしょうか。調査データをもとに詳しく見ていきましょう。
60代以降の生活費
総務省が実施した「家計調査報告(家計収支編)2023年(令和5年)平均結果の概要」の調査データによると、65歳以降で仕事をしていない場合の家計の収支では、夫婦二人の収入は毎月24万4580円、消費支出は25万959円です。
単身世帯では収入が12万6905円で消費支出は14万5430円となっています。支出の主な内訳を見ると、食料の割合が多いことがわかります。
夫婦のみも単身世帯も収支状況を見る限り、ゆとりある老後とはいえない状態です。
(参考:家計調査報告(家計収支編)2023年(令和5年)平均結果の概要|総務省)
60代の貯金額・貯蓄額
60代の総世帯の金融資産保有額の平均値は2499万円、中央値は1200万円です。二人以上世帯の平均値は2588万円、中央値は1200万円、単身世帯では平均値は2240万円、中央値は1100万円です。
預貯金額は、総世帯は1090万円、二人以上世帯は1130万円、単身世帯は972万円となっており、金融資産保有額に対して預貯金の割合は多くなっているようです。
※本記事では「貯金額=預貯金額」「金融資産保有額=貯蓄額」と表記しています
※貯蓄額は預貯金以外に保険や有価証券なども含んだ金額としています
将来もらえる年金
将来もらえる年金について、令和4年度の老齢年金は14万4982円で、令和元年度から比較すると1180円少なくなっています。
国民年金は、25年以上保険料を納めた場合の令和4年度の支給額が5万6428円です。こちらは、令和元年度に比べると379円増えていることがわかります。
将来もらえる年金を詳しく知りたい場合は、ねんきんネットや年金定期便で確認しましょう。
近年の物価上昇を考慮すれば、貯蓄があってもお金の価値は目減りしてしまうため、年金だけに頼らず、お金の運用について早いうちから準備をすることも検討しましょう。
(参考・画像引用:令和4年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況|厚生労働省年金局)
退職金
勤務先に退職金制度がある場合、その規定に沿って退職金を受け取ることができます。
<引用:中小企業の賃金・退職金事情|東京都産業労働局>
東京都産業労働局の「中小企業の賃金・退職金事情(令和4年度版)」によると、モデル退職金(※)は大学卒の場合で1091万8000円、高校卒の場合は994万円です。
<引用:中小企業の賃金・退職金事情|東京都産業労働局>
100〜299人の企業規模の場合、退職金は大学卒で1323万円、高校卒で1204万5000円です。退職金の額は企業規模や学歴等によって異なります。
※学校を卒業してすぐ入社した人が普通の能力と成績で勤務した場合の退職金水準|(調査産業計)
(参考:中小企業の賃金・退職金事情|東京都産業労働局)
老後に必要なお金
生命保険文化センターの調査によると、夫婦二人で老後生活を送るうえで最低限必要な日常生活費は月額平均23.2万円となっています。
また、老後に必要な最低日常生活費を「20〜25万円未満」と回答した人は全体の27.5%と最も高くなっています。
さらに、ゆとりある老後を送るなら、月額で平均14.8万円が必要という結果になっており、最低限必要な生活費にプラスすると、1ヶ月で約38万円が必要になります。
個人のライフスタイルによって異なるものの、老後の収入は限られているため、しっかりとセカンドライフの準備をしておく必要がありそうです。
(参考:2022(令和4)年度 生活保障に関する調査|生命保険文化センター)
現在の資産で60代以降、何年生活できるかシミュレーション
現在の資産で60代以降、何歳まで生活ができるか気になっている人も多いでしょう。
以下の数字を参考に、シミュレーションしてみましょう。
(参考:令和4年簡易生命表の概況|厚生労働省)
60歳男性・単身者の場合
単身世帯の場合、各種データから単純計算すると、毎月の収支に少額の赤字は発生しますが、貯蓄を大きく取り崩すほどではないようです。
ただし、これは収入の範囲内で生活ができた場合です。賃貸住まいの場合は別途、家賃を支払う必要があります。
また、趣味やレジャー、友人との付き合い等が増えると、お金が減るスピードは早くなるため注意が必要です。
特に単身世帯では病気や介護への心配から、高齢者向け住居への入居を検討することもあるでしょう。
ホームへの入居も含め、介護費用にはまとまったお金が必要なことから、希望する人は関連費用を調べておくと安心です。
60歳夫婦の場合
夫婦世帯の場合、各種データから単純計算すると、毎月約5万円、年間で60万円の赤字が生じることがわかります。
60代の金融資産保有額や平均退職金額などから、約2300万円の資産があると仮定して、この資産を取り崩して生活すると、お金が尽きるのは約38年後です。
一見すると家計に問題は無さそうに見えますが、旅行や趣味にかかる費用、交際費、医療費などが増加すると、当然ながらお金が減るスピードは早くなります。
近年の物価上昇も、今後の支出増に拍車をかけることになりそうです。
さらに、賃貸住まいの場合は別途、家賃の支払いも必要になります。これらの支出は家計に重くのしかかるため、早めに対策しておくことをおすすめします。
60代は手元の資金を安全に運用することが大切
60代から投資をスタートする場合、病気や介護などで、数年後にまとまったお金を使う状況が訪れるかもしれません。
長期投資が難しい場合は、できる限り安定的な投資を心がけることが大切です。
リスクの高い運用をして、万が一元本が大きく割れた場合には、取り戻すことが難しくなります。
投資期間がある程度決まっていて、大切な資産を減らしたくない場合は、手元の資金を安全に運用することが大切です。
毎月の少額積立投資とまとまったお金の一括投資を組み合わせる
資産運用は、毎月の収入から一定額を積み立てる方法と、これまで貯めたお金を一括で運用する方法を組み合わせるのが理想的です。
どの商品を積立投資で運用するか、一括投資で運用するかは、投資家のリスク許容度などによって異なります。
例えば、低リスクの債券などは一括投資で運用し、ややリスクの高い投資信託などは積立で少額投資をする方法などは、投資初心者も取り組みやすい方法です。
»60代の商品選びについて、専門家に無料相談
積立投資はなるべく長期運用を心がける
毎月貯金できるお金を積立投資する際に気をつけるポイントは3つです。
まず、可能な限り、長期運用を心がけることです。
元本保証のないリスク性商品に投資をすると、自身の資産は日々増減します。短期の値動きに一喜一憂せず、資産運用を始めた目的や目標額を意識し、できるだけ長く運用を行いましょう。
次に、購入するタイミングを分散することが大切です。
値動きのある金融商品を毎月タイミングを分けて投資することで、買値が平準化され、高値で買うことを防ぐことができます。
そして最後に、複数の投資先に分散することを意識しましょう。一つの国や地域に偏ることなく分散投資を行うことで、リスク軽減が期待できます。
一括投資は安定的な資産に投資する
まとまったお金の運用は、安定的な資産で運用することがポイントです。
安定的な資産で運用する時も、長期で運用した方が運用効率はアップします。投資した金額に対して利息が付き、さらにその利息にも利息がつけば、長期運用による複利効果が期待できるためです。
このように複利を上手く活用すれば、雪だるま式にお金が増えることが期待できます。長期間使わないお金があれば、運用に回すことも検討しましょう。
おすすめの積立投資:NISA
2024年から新NISA(新しいNISA)がスタートし、新たに設けられたつみたて投資枠と成長投資枠は併用が可能になっています。
年間投資可能額は、つみたて投資枠が120万円で成長投資枠が240万円です。生涯投資上限額は1800万円なので、仮につみたて投資枠のみを毎年120万円使用した場合は、15年で上限に達することになります。
投資で得た利益に対して、通常20.315%の税金がかかりますが、NISAの場合は非課税となるため、メリットも大きいでしょう。
つみたて投資枠は、長期・積立・分散に適した制度で、コツコツ積立をしたい人にはおすすめの制度です。
おすすめの一括投資:債券
企業や国、地方自治体などが、多数の投資家から資金を調達するために発行する有価証券のこと
投資家は、債券を購入することで発行体(国や企業など)に資金を提供することになり、その見返りとして、あらかじめ約束された利子などを受け取ることができます。
債券は発行されてから一定期間後に投資家へ資金を返済する義務が生じるため、満期(償還日)には投資家に元本が払い戻されます。
ただし、債券の保有期間中や満期時に発行体の財務状況が悪化すると、利子の支払いが滞ったり、元本の返済が遅れたりするリスクがあります。
債券の種類によってリスクはさまざまですが、株や投資信託に比べて、先進国債券などはリスクが低い投資先に分類され、安定した運用が期待できます。
60代の資産運用事例
60歳の独身男性で現在も勤続中(65歳で退職予定)、預貯金が900万円の例で見てみましょう。
以下の内容でシミュレーションします。
【10年間運用】
- 毎月2万円をNISAで投資(積立投資)
- 預貯金のうち300万円を外貨建て債券に投資(一括投資)
毎月の積立投資をNISA(積立投資)で行うと10年後に約310.6万円(年利5%)、外貨建て債券が約404.8万円(年利3%)になりました。
NISA口座は非課税なので、約71万円の利益に対し約14万円の節税効果も得られます。
このシミュレーション結果はあくまで概算で、為替等も考慮していませんが、60代からでも投資をすることで資産が増える可能性は高くなります。
なお、会社員の場合、退職時には退職金が支給されたり、厚生年金も受け取れるため、退職後は退職金・年金・投資で増やした資産等で生活することになります。
運用自体は10年後以降も継続できるので、運用しながら生活に必要な分を適宜解約する方法なども検討してみましょう。
60代で資産運用を失敗しないためのポイント
60代で資産運用を始めるにあたって、なるべく失敗しないためにも以下のポイントは最低限おさえておきましょう。
支出と収入のバランスを見ながら資産運用を行う
60代になれば、年金で生活する人も増えてくるため、支出と収入のバランスを考えて運用する必要があります。
運用利回りが高いほど、自身の資産も増加しやすくなりますが、その分リスクも大きくなります。多くのリスク性商品には元本保証がないため、投資を継続する場合は余裕資金で行うことを心がけましょう。
また、運用資産の一部を定期的に取り崩して生活費として充てる場合、いくらのお金を、どの資産から取り崩すか考えておくことも大切です。
全体の資産バランスも管理しておきましょう。
商品選びを慎重に行う
資産運用にはさまざまな金融商品があります。大切なことは、商品の仕組みやリスク、税制などを十分に理解して始めることです。
仕組みが理解しにくい金融商品、リスクが高い商品、また流動性の低い商品などは、特に投資に慣れていない人は選ばないようにしましょう。
投資にはリスクが伴うため、お金が必要な時に元本割れを起こしてしまうことは最も避けたいことです。金融商品選びは慎重に行い、場合によっては専門家のアドバイスを受けることも大切です。
リスク分散を行う
60歳から投資を始めるのであれば、自身の資産を老後の生活費として使う時期が間近に迫っているため、リスクを分散させた安定的なポートフォリオにシフトしていくことが大切です。
各世帯の状況に応じたポートフォリオを組むことが前提ですが、資産の一部を積極的に運用する商品に投資しつつ、債券の比率を高めるなど、資産を減らさない運用を目指すことを検討しましょう。
不安な時は運用経験のあるアドバイザーに相談する
いざ投資をスタートしようと考えても、金融商品や投資対象の選び方などに、とまどう人も多いかもしれません。
また、投資には元本保証がないため、自分のリスク許容度を超えるような間違った商品選びをしないよう、商品内容や税制などの理解も必要です。
大切に貯めてきた資産をどのように活用できるのか、少しでも不安がある場合は、運用経験のあるアドバイザーに相談することをおすすめします。
まとめ:60代はNISAだけに頼らず安全な運用が大切
60代からの投資でも、遅すぎることはありません。とはいえ、20代や30代に比べ、お金を使う時期が近いことが考えられるため、投資商品選びには十分注意が必要です。
まとまったお金がある場合は、リスクの高い投資よりも安定的な運用を行い、そのうえで積立投資をする場合は新NISAを活用しながら、リスクの高いものをコツコツ積立することも一案です。
運用方法は、スタートする年齢や自分のリスク許容度などによりさまざまです。
NISAだけに頼らず、リスクの異なる資産を併せ持ちしながら、じっくりと自分の資産を大事に育てていきましょう。
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土屋 史恵
- ファイナンシャルプランナー/金融ライター/編集者
神戸市外国語大学卒業後、外資系生命保険会社、都市銀行にてリテール営業、法人営業に携わる。遺言信託など資産承継ビジネスに強み、表彰歴あり。その後は長年の金融機関勤務経験を活かし、金融メディアに転職。記事執筆や編集などを担当。現在はフリーランスとして活動中。AFP、FP2級、証券外務員一種を保有。
執筆者
田中 友梨
- ファイナンシャルアドバイザー
筑紫女学園短期大学卒業後に株式会社三井住友銀行に入行。リテール営業に従事し、卓越した成績を残す。24歳で2年間銀行を休職し青年海外協力隊員としてフィリピンでボランティアをするなど異色の経歴を持つ。受賞歴多数。現在は金融IT企業で個人向け資産運用のコンサルティング業務を行う。老後資金の準備や相続の相談などを得意とし自身の投資歴20年以上。一種外務員資格(証券外務員一種)を保有。