出産手当金とは? いつもらえる?社労士が計算方法や申請手順をわかりやすく解説
「出産手当金はいつもらえる?」「支給額の計算方法は?」と、出産手当金の仕組みについてまだよく理解できていない人も多いのではないでしょうか。
出産手当金とは仕事を休んでいる妊婦(被保険者)であれば受け取ることができる手当金のことをいいます。
出産手当金の対象になる条件として「被保険者が出産のために休んでいること」などが挙げられますが、条件を満たせば誰でも受給可能です。
制度として聞いたことがあっても、いくらもらえて、いつまでにどうやって申請をするのか、きちんと理解している人は少ないでしょう。
本記事では社労士監修のもと、出産手当金の対象条件、計算方法、申請方法などについて詳しく解説しています。
※本記事は2022年2月時点の制度内容をもとに作成しています
※本記事では一般的な内容かつ一例を記載しています。制度について不明点がある場合はお住まいの市区町村でご確認ください
- 出産手当金の対象になる条件は「妊娠4ヶ月以上の出産であること」「出産のために仕事を休んでいること」など
- 出産手当金の対象にならないのは「扶養家族である」「休職期間中に出産手当金以上の給与をもらっている」など
- 出産手当金が支給される期間は「産前42日(多胎の場合は98日)」と「産後56日」のうち、実際に仕事を休んだ日数
出産手当金とは
出産手当金とは、出産を理由に会社を休んだ時に支給される手当のことです。
出産となると長期で会社を休むことになるため、本人や家族に経済的な負担がかかってしまいます。そこで、安心して出産育児に臨めるよう設けられたのが、出産手当金なのです。
他にも、出産育児一時金や育児休業給付金など、出産前後で受け取れる手当があるため、混同しないよう整理しましょう。
出産育児一時金と育児休業給付金との違い
上の表のとおり、支給される目的だけでなく申請先も異なります。同じ時期に申請するものもあるため、混同しないよう覚えておきましょう。
また、出産手当金は本人が健康保険に加入している場合のみ対象になるため、注意が必要です。協会けんぽ、健康保険組合、共済組合など勤め先の保険に加入している人に支給されます。
国民健康保険や夫の扶養に入っている場合は対象外ですが、出産育児一時金では全員が対象になります。
(参考:出産に関する給付 | こんな時に健保 | 全国健康保険協会)
(関連記事:【行政書士監修】育児休業給付金はいつまで、いくらもらえる?申請方法や計算例を解説)
(関連記事:出産育児一時金とは?どこから支給される?3つの申請方法をわかりやすく解説)
Q.出産手当金、出産育児一時金、育児休業給付金、条件に合えば全部もらえる?
それぞれの条件を満たせば、出産手当金、出産育児一時金、育児休業給付金のすべてを受給することができます。
例えば、出産日が予定日よりも遅れると、当初想定していた育休期間と重なりそうに思えます。
しかし、出産手当金はその分延長して支給され、育児休業給付金は出産日から起算して計算します。
つまり、計算期間が重なることはなく、それぞれを受給できるということです。
Q.出産で会社を休んだ時は傷病手当金?出産手当金?どちらももらえる?
傷病手当金とは、病気や怪我で会社を休んだ時に、一定の条件を満たせば給与の約3分の2が受け取れる制度です。一般的には出産を理由に会社を休む場合には、出産手当金が優先されます。
ただし、両者は支給日数が異なるケースもあるため、出産手当金の額が傷病手当金の額よりも少ない場合は、傷病手当金を申請して出産手当金との差額を受給することもできます。
(参考:出産で会社を休んだとき | こんな時に健保 | 全国健康保険協会)
出産手当金の対象になる条件
出産手当金は、以下の3つの条件を満たせばもらうことができます。詳しく解説していきます。
①健康保険加入者である被保険者が出産
まずは職場の健康保険に加入している必要があります。本人が健康保険に加入していることが条件のため、正社員だけでなく派遣やパート、アルバイトも受給対象です。
ただし、もし出産を理由に退職している場合でも、健康保険の加入期間や退職日が条件を満たせば受給できる可能性があります。退職予定の場合は、一度会社に確認してみましょう。
②妊娠4ヶ月以上の出産であること(死産・早産・人口妊娠中絶含む)
健康保険の対象者であることに加え、その出産が妊娠4ヶ月(85日)を過ぎてからであることも、出産手当金の条件になります。
10ヶ月未満での出産は早産をイメージされることが多いですが、この場合の出産には早産だけでなく、流産や死産、人工中絶等も含まれます。
なお、出産予定日から遅れて出産した場合も出産手当金の支給対象となります。
(参考:出産に関する給付 | こんな時に健保 | 全国健康保険協会)
③出産のために仕事を休んでいること
最後に、出産のために仕事を休み、給与が支払われていないことも条件になります。
産休期間中の経済負担を軽減するための制度であるため、給与が支払われた場合は対象外になります。
ただし、その給与の日額が出産手当金の日額より少ない場合は、出産手当金と給与の差額が支給されます。
※1日あたりの金額は <(支給開始日の以前12ヶ月間の各標準報酬月額を平均した額)÷30日×3分の2> で計算します
Q.育休中に2人目(3人目…)を出産した場合も出産手当金はもらえる?
出産手当金は育児休業給付金との併給が可能です。そして、出産手当金は産前休暇を取ることを要件としていません。あくまで「労務に服していない」場合に支給となります。
つまり、産前期間は産前休暇を取得せず、育児休業を継続することで、育児休業給付金と出産手当金を両方受け取ることが可能になります。
なお、出産後の産後休暇は会社が取得させなければならないため、育児休暇から産後休暇に切り替わり、出産手当金が優先されて第一子の育児休業給付は終了となります。
(参考:第1子の育児休業中に第2子を出産したとき | [ITS]関東ITソフトウェア健康保険組合)
出産手当金の対象にならないケース
出産手当金の対象にならないケースもおさえておきましょう。
①国民健康保険の被保険者(例:個人事業主、無職など)
出産手当金は、会社員などが加入する協会けんぽや組合健康保険などの制度から給付される手当金です。
そのため、国民健康保険に加入している場合は制度の対象外です。具体的には、自営業者、個人事業主、フリーランス、無職の人などが該当します。
ただし、自営業者でも「国民健康保険組合」に加入している場合、組合によっては対象の制度がある可能性があります。ホームページや窓口などで確認しましょう。
②扶養家族である(例:夫の扶養に入っているパートなど)
自営業ではなく会社に勤務している場合でも「保険は夫の扶養」というケースもあります。パート勤めの人に多いですが、この場合も制度の対象外です。
出産手当金はあくまでも「自分が勤めている先の保険」で対象になるため、夫の扶養に入っている場合は出産手当金が受け取れません。
もちろん、妊娠している本人が支給対象のため、加入者本人である夫も対象外です。
③休職期間中に出産手当金以上の給与をもらっている(例:公務員など)
休職期間中、出産手当金以上の給与をもらっている場合も対象外となります(ただし、出産手当金以下の給与をもらっている場合は、出産手当金と給与の差額が支給されます)。
産休中の労働はあまりないと思われるかもしれませんが、独自の付加給付により産休中にも給与が保障されるケースがあります。
例えば、地方公務員の場合は産休中でも条件を満たしていれば、給与が全額保障されています(各種手当ては除く)。
産休中にも休職前と変わらない給与が受け取れることになるため、出産手当金は対象外になります。大手の企業でも同様のケースが見られます。
④健康保険の任意継続被保険者
健康保険の任意継続被保険者も、出産手当金の対象外です。
任意継続とは、会社を退職してからも「資格喪失日の前日までに継続して2ヶ月以上の被保険者期間がある」「資格喪失日から20日以内に申請する」という条件を満たせば、会社の保険に引き続き加入できる制度です。
任意継続では同様の給付を受けられる一方、出産手当金や傷病手当金等は対象外となるため、注意が必要です。
(参考:出産に関する給付 | こんな時に健保 | 全国健康保険協会)
Q.退職後に出産手当金はもらえない?
退職後でも出産手当金の対象になれる条件があります。
退職後でも出産手当金の支給を受けられる条件は以下の2つです。
・資格喪失時に出産手当金を受けているか、または受ける条件を満たしていること
※退職日に出勤した時は、継続給付を受ける条件を満たさないため資格喪失後(退職日の翌日)以降の出産手当金は受け取れません
出産手当金はいつからもらえる?対象期間と支給日
出産手当金の対象期間と支給日について詳しく見ていきましょう。
対象期間
出産手当金が支給される期間は「産前42日(多胎の場合は98日)」と「産後56日」のうち、実際に仕事を休んだ日数です。
出産予定日より遅れて出産するケースもありますが、その場合は予定より遅れた日数がプラスされます。
ちなみに、出産日当日は産前期間に入ります。また、産前と産後など、複数に分けて申請することもできますが、その都度事業主の証明が必要となります。
(参考:Q2:出産手当金はどのくらいの期間が支給されますか?|全国健康保険協会)
出産手当金支給決定通知書で支給日などを確認
申請が無事に終われば、後日送られてくる出産手当金支給決定通知書で支給日などを確認しましょう。
加入先の保険にもよりますが、申請してから通常1〜2ヶ月後に振り込まれることが多いです。
万が一通知が届かない場合、「通知が会社に送付されている」「手続きが漏れている」などのトラブルが発生しているケースもあります。時期を見て、会社の健康保険窓口に確認してみましょう。
出産手当金はいくらもらえる?支給額の計算方法
実際に出産手当金はいくらもらえるのか、シミュレーションしてみましょう。
計算式と1日あたりの金額
出産手当金の日額は基本的に
上記の計算式で求められます。
標準報酬月額とは、報酬月額の等級ごとに設定された金額のこと。毎月の給料から計算されるため、実際の給与額面とは若干異なります。
例えば、標準報酬月額が30万円の場合、計算式に当てはめると
つまり、1日あたり6667円が対象期間中に支払われることになります。
対象期間とは「産前(単胎が前提)42日+産後56日」であるため、出産予定日に産んだ場合は
産休期間を通して、約65万円が受け取れる計算になります。
出産予定日より遅れた場合は、その期間の日数分が上乗せされます。
Q.入社して1年未満だとどうなる?
入社して1年未満に出産することになった場合は、先の計算式のうち【支給開始日以前の継続した12ヶ月間の各月の標準報酬月額を平均した額】を下記のいずれか低い額に置き換えます。
ア 支給開始日の属する月以前の継続した各月の標準報酬月額の平均額
イ 標準報酬月額の平均額30万円(当該年度の前年度9月30日における全被保険者の同月の標準報酬月額を平均した額)
これらにより求めた金額を30日で割り、さらに3分の2をかけた金額が、1日あたりの支給額となります。
(参考:出産に関する給付 | こんな時に健保 | 全国健康保険協会)
Q.賞与をもらったら出産手当金に影響する?
産休中に賃金を受け取ると、出産手当金が受け取れない(もしくは減額される)ことがわかりました。賃金ではなくボーナスを受け取っていた場合でも、出産手当金に影響するのでしょうか。
基本的に、年3回までのボーナスは支給額の計算に含まないため、ボーナスが出産手当金に影響することはないでしょう。
ただし、年棒制の企業ではボーナス分を含めて支給が確定される扱いになるため、受給額が減る可能性もあります。就業規則等を確認すると良いでしょう。
Q.出産手当金に税金はかかる?
出産手当金を受け取っても、所得税がかかることはありません。これは健康保険法において定められており、所得として計上する必要がないからです。
そのため、妻が出産した年の所得は下がることが多くなり、夫が配偶者控除を受けられるようになるケースもあります(ただし、住民税は前年の所得分にかかるため、支払う必要があります)。
(参考:配偶者控除|国税庁)
出産手当金の申請方法
出産手当金は、主に勤務先に申請することになります。
申請期間と期限
申請できる期間は、産休開始の翌日から2年以内です。こちらを過ぎると、1日ごとに時効により請求権が消滅するため注意しましょう。
例えば、2022年2月1日から2022年5月1日まで産休をとった場合、申請期間の起算日は2022年2月2日となります。
もし申請を忘れてしまうと、2024年の2月1日から1日ずつ時効を迎えてしまうということです。
申請方法
具体的な申請方法を見ていきましょう。
1.【産休前】勤務先に出産手当金を利用したいことを伝える
まずは産休に入る前に、勤務先に「出産手当金を利用すること」を伝えます。
妊娠中はどんなトラブルが起きるかわからず、産休前に仕事を休むケースも多いため、今後の手続きについてもまとめて確認することをおすすめします。
育休の申請なども同時で進めることになるので、総務や人事などに流れを確認しておくとスムーズでしょう。
2.【産休前~産休中】必要書類を入手・作成
次に、必要となる書類を準備します。申請書は会社に備え付けのものを使うか、HPでダウンロードすることもできます。
例えば、協会けんぽの保険に加入している場合は、書き方例も載っているため参考になるでしょう。
申請書には医師または助産師の意見書と事業主の証明を添付します。必要事項を記入してもらう時間がかかるため、余裕をもって依頼しておきましょう。
※添付書類は主に必要となるものを記載しています。マイナンバーカードなど、個別に必要となるケースもあるため、事前にご確認ください。
(参考:健康保険出産手当金支給申請書 | 申請書 | 全国健康保険協会)
3.【産後】必要書類を提出
出産後、必要書類をまとめて会社に提出します(勤務先によっては、健康保険の窓口に直接提出するケースもあります)。
これらが受理されてから、1〜2ヶ月後に振り込まれるという流れです。もし不備がある場合、再度提出が必要になります。時効もあるため、記入漏れなどには気をつけましょう。
まとめ
出産手当金に関して、以下にまとめました。
A.出産のため休業している期間、給与の約3分の2が受け取れる制度です。
Q.誰が対象?
A.会社の健康保険に加入している女性で、出産手当金以上の給与を受け取っていない人が対象です。
Q.何日分もらえる?
A.産前42日+(出産予定日より遅れた期間)+産後56日の期間分がもらえます。
Q.支給額の計算方法は?
A.基本的には【「支給開始日以前の継続した12ヶ月間の各月の標準報酬月額を平均した額」÷30日×3分の2】で求められます。
Q.どこにどうやって申請すればいい?
A.会社の人事や総務が窓口になることが多いです。必要書類に「医師の意見書」や「事業主の証明」などを添えて、産後に申請しましょう。
妊娠・出産は不安に思うことも多いですが、お金の面ではさまざまな助成制度があります。ぜひ利用してみてはいかがでしょうか。
(監修協力/unite株式会社)
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監修者
村田 淳
- 社会保険労務士/産業カウンセラー
早稲田大学商学部卒業。えん社会保険労務士法人代表。前職15年間で100社近い顧客に対して、労務管理や給与計算のコンサルティングやアウトソーシングサービスに従事した後に独立。独立後は、自身がメンタルを崩した経験から、メンタルヘルスに関わりたいという想いで100時間超のカウンセラー傾聴訓練を積み、産業カウンセラー資格を取得。労働法と心理学の両面から労務管理のアドバイスを行っている。2020年10月、個人事務所を「えん社会保険労務士法人」として法人化。損得よりも縁を大切にすることを事務所の方針として活動している。
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