企業型DCとiDeCo、どっちが得?8つの違いとケース別の選び方を専門家が徹底比較
老後の必要額と自分に合う投資がわかる:無料診断
「企業型確定拠出年金とiDeCo、どっちが得?」「併用するべき?」と、確定拠出年金の活用法について疑問を持つ人も多いのではないでしょうか。
企業型確定拠出年金(企業型DC)は企業が導入する制度で、原則として会社が掛金を拠出するのに対し、iDeCo(個人型DC)は自分で掛金を出し、老後資金を準備する私的年金制度です。
本記事では「企業型確定拠出年金(企業型DC)とiDeCo、どっちが得か」を知りたい人に向けて、制度の違いを8つの観点から徹底比較。ケース別の賢い活用法を専門家がわかりやすく解説します。
- 企業型DCとiDeCoの仕組みと税制上の優遇措置
- 企業型DCとiDeCoのメリットとデメリット
- どちらが得かは勤務先の制度や資産状況、収入などを総合的に判断することが必要
企業型DCとiDeCo、どちらを利用しようか悩んでいるあなたへ
マネイロでは将来のためのお金の診断・サービスを提供しています
▶3分投資診断:必要な老後資金と自分に合う投資がわかる
▶賢いお金の増やし方:専門家が解説する30分のWebセミナー
▶オンライン相談:iDeCoについて専門家に直接相談
企業型確定拠出年金とiDeCoとは
企業型確定拠出年金(企業型DC)と個人型確定拠出年金(iDeCo)は、老後に向けた資産形成を支援するために国が設けた私的年金制度です。
それぞれの概要について詳しく見ていきましょう。
企業型確定拠出年金(企業型DC)とは
企業型確定拠出年金(以下、企業型DC)とは、「企業が掛金を拠出し従業員が運用方法を決定」する企業年金です。
これまで企業年金は「企業が掛金を拠出し企業が運用」する確定給付企業年金(DB)が中心でしたが、確定給付企業年金から企業型DCに移行する企業が増えています。
確定給付企業年金では年金額が確定(運用が不調だった時は企業が負担)しているのに対し、企業型DCでは運用成果に応じて年金額は変動します。つまり、企業型DCで運用責任を負うのは従業員ということになります。
(参考:私的年金制度の概要(企業年金、個人年金) |厚生労働省)
iDeCoとは
個人型確定拠出年金(以下、iDeCo)とは、「個人が掛金を拠出して運用し、運用成果に応じた年金を受給」する個人年金です。加入は任意ですが、個人の老後資産形成を支援するため国は手厚い税制上の優遇措置を設けています。
当初、加入者は自営業者や企業年金のない会社員などに限定されていました。その後、企業年金の加入者や公務員、専業主婦なども加入できるようになり、加入者数は約363万人(2025年3月時点)まで拡大しています。
※iDeCo公式サイト|国民年金基金連合会
(参考:iDeCoの概要 |厚生労働省)
(参考:加入者数等について|iDeCo公式サイト|国民年金基金連合会)
企業型確定拠出年金とiDeCoの仕組みを徹底比較
企業型確定拠出年金(企業型DC)とiDeCoの仕組みの違いについて、以下の表を参考に詳しく見ていきましょう。
1.加入対象者
企業型DCの加入対象者は、従業員(厚生年金被保険者)です。ただし、実際の加入要件は確定拠出年金法に基づいて企業が決定するため、勤続年数や職種などによっては加入できない従業員もいます。
iDeCoは、原則国内に在住する20歳から60歳の人で国民年金や厚生年金に加入している人が対象です。ただし、60歳を過ぎて厚生年金に加入している人や国民年金に任意加入している人もiDeCoに加入できます。
2.掛金の上限額
企業型DCの掛金の上限額は月5.5万円です。しかし、掛金は勤続年数や役職などに応じて企業が決定するため、従業員が希望しても5.5万円掛けられないこともあります。
また、確定給付企業年金や厚生年金基金などがある場合、各制度の掛金合計は月5.5万円までです。
iDeCoについては、国民年金第1号被保険者の自営業者などは月6.8万円まで掛けられますが、第2号、3号被保険者は原則2.3万円(企業年金がある会社員などは2.0万円)です。
3.拠出できる期間
企業型DCで拠出できる期間は、従業員が厚生年金に加入して在籍している間です。厚生年金に加入できるのは70歳までです。ただし、定年後再雇用の場合など、定年時に拠出を打ち切る企業もあります。
iDeCoについては、国民年金または厚生年金に加入している65歳までの期間です。国民年金の加入は原則60歳ですが、任意加入すれば65歳まで加入できます。
(参考:企業型DC加入者の加入可能年齢が引き上げられます|厚生労働省)
4.税制優遇
企業型DCとiDeCoの運用益はどちらも非課税です。個人が資産運用した場合の課税(運用益の原則20%+復興特別所得税)がないため、その分を再投資して効率的な資産運用ができます。
また、受け取る年金は公的年金等控除の対象、一時金受け取りの場合は退職所得控除の対象となるため、課税金額を抑えられるという点も同じです。
一方、掛金に対する優遇措置は両制度で異なります。企業型DCは掛金全額を損金計上して法人税を抑え、iDeCoは所得控除によって所得税を抑えられます。
5.掛金と社会保険料との関係
社会保険料は給与(正確には標準報酬月額)に保険料率をかけて計算します。企業型DCの掛金は福利厚生費として仕訳けするため、社会保険料の計算基礎となる給与に含まれません。
一方、iDeCoの掛金は受け取った給与から支払うことになります。
具体的に次のケースで社会保険料を比較してみましょう。
- 企業が企業型DCで掛金を支払った場合:給与30万円、企業の掛金5万円
- 企業年金の代わりに給与で支払い、従業員がiDeCoの掛金を支払った場合:給与35万円、従業員の掛金5万円
給与の15%を社会保険料として概算すると、企業型DCを利用した場合の社会保険料は「4.5万円」であるのに対し、iDeCoを利用した場合は「5.25万円」と高くなります。
6.運用商品と手数料
企業型DCでは、企業が選定した「運営管理機関(金融機関など)」が取り扱う運用商品の中から従業員が選択します。従業員が運営管理機関を選択できないため、希望する運用商品がないケースもあるでしょう。
一方、iDeCoでは従業員が選定した運営管理機関が取り扱う運用商品の中から選びます。希望する運用商品を取り扱う運営管理機関を選定できるため、従業員にとって商品選択の自由度が高いと言えます。
なお、掛金の運用や管理の手数料を負担するのは、企業型DCでは企業、iDeCoでは加入者個人です。
(参考:確定拠出年金の仕組み:加入~運用と受給|厚生労働省)
7.掛金の納付方法
企業型DCの掛金は、企業が口座振込や口座振替などで「資産管理機関(※)」に支払います。
一方、iDeCoでは加入者個人が「国民年金基金連合会」に支払います。また、会社が従業員の給与から掛金を天引きして支払うという方法(事業主払込)もあります。
※運営管理機関の指図に基づき、掛金の管理や運用商品の売買、年金給付などを行う組織
8.受け取り方
企業型DCとiDeCoの受け取り方は共通で、次の3つです。ただし、企業型DCについては企業が独自のルールを定めることもあるため注意しましょう。
- 年金受け取り
- 一時金受け取り
- 年金と一時金で受け取り
年金受け取りの場合、60歳以降75歳になるまでに受給開始します。年金は原則、5年以上20年以下の有期年金です。
一時金の場合、60歳以降75歳になるまでの間に一括で受け取れます。
9.所得控除の手続き
企業が負担する企業型DCの掛金は、全額損金計上できるため法人税の確定申告によって法人税を軽減できます。
iDeCoの掛金は、会社員は年末調整により、自営業者などは確定申告によって申告するのが一般的です。掛金全額が「小規模企業共済等掛金控除」の対象となり所得税などが軽減されます。
10.制度の始め方
企業型DCは、最初に企業が運営管理機関を選定します。従業員は企業からの案内に従って、運営管理機関が取扱う運用商品を決定します。
iDeCoの加入手続きをするのは、加入者個人です。運営管理機関や各機関の取扱い運用商品を比較して選択し、加入申込の手続きを行います。選択時には運用や管理にかかる手数料を確認しましょう。
長期間の資産運用となるため、手数料の違いが運用成績に大きく影響します。
企業型確定拠出年金とiDeCo、どっちが得?①メリット・デメリット
企業型確定拠出年金(企業型DC)とiDeCoの、それぞれのメリットとデメリットについて解説します。どちらが得かを考える時の参考にしましょう。
加入・拠出の自由度
企業型DCは、勤務先が制度を導入していなければ加入できません。拠出金額についても、勤続年数や役職などに応じて企業が決定するため、従業員が加入の有無や拠出金額(マッチング拠出の従業員拠出分を除く)を決められません。また、国民年金の第1号・3号被保険者は対象外です。
iDeCoについては、年金制度に加入していれば加入するかどうかを自分の意思で決定できます。また、拠出限度額の範囲内ならいくら掛けるかを自由に決められます。
加入・拠出の自由度はiDeCoの方が高いと言えるでしょう。
運用商品の選択肢と自由度
企業型DCの場合、企業が「運営管理機関(金融機関など)」を決めます。従業員は、企業が選んだ運営管理機関の取扱い商品の中から運用商品を決めることになります。選択の自由はありますが、選択肢は限定的です。
一方、iDeCoは従業員が運営管理機関を決められることが特徴です。希望する運用商品を取り扱う運営管理機関を選択して、自由に運用商品を選べます。
各運営管理機関の取扱い商品を比較する手間はかかりますが、運用商品の選択肢は広がります。
手数料・コストの違い
手数料やコストは運営管理機関や運用商品によって異なるため、企業型DCとiDeCoのどちらが得かは一概に言えません。ただし、手数料やコストの負担者は両制度で異なります。
企業型DCは、口座の管理手数料や運営手数料などを企業が負担します。運用商品の売買にかかる手数料は従業員負担です。
iDeCoは手数料やコストはすべて個人が負担することになるため、従業員は企業型DCの方が負担を抑えられます。
企業型確定拠出年金とiDeCo、どっちが得?②節税効果
節税効果の面から、企業型確定拠出年金(企業型DC)とiDeCoのどちらが得かを解説します。
共通する節税効果
企業型DCとiDeCoに共通する税制上の優遇措置は次の2つです。
- 運用益の全額が非課税
- 一時金で受け取る場合は退職所得控除の対象
年金で受け取る場合は公的年金等控除の対象
運用益が非課税になった分を再投資に回せるため、運用効率を高められます。また、退職所得控除などによって、一時金や年金にかかる税金を抑えられるため、手取り収入がアップします。
異なるポイント・注意点
企業型DCとiDeCoの税制上の相違点は、掛金の性質と取扱い、掛金の上限額です。それぞれについて解説します。
掛金拠出者と所得控除の扱い
企業型DCは企業が掛金を拠出し、iDeCoは個人が拠出するため税制上の取扱いは異なります。iDeCoでは掛金全額が所得控除され所得税が軽減されるため、節税効果があるのは個人です。
一方、企業型DCの掛金は損金計上して法人税が軽減されるため、メリットを受けるのは企業です。ただし、従業員の資産形成のために企業が拠出した掛金であるにもかかわらず所得とならないため、従業員にもメリットがあると言えるでしょう。
掛金上限が異なるため、節税額にも差が出る
従業員にとっては、掛金が所得にならない(企業型DC)または所得控除される(iDeCo)ため節税効果があります。ただし、掛金が異なれば節税効果にも差が出ます。
企業型DCの掛金は月5.5万円、iDeCoは職業などに応じた上限額が設定されているため、上限額が小さければ大きな節税効果は期待できません。
企業型確定拠出年金とiDeCo、どっちが得かは人によって異なる
企業型DCとiDeCoのメリットやデメリット、節税効果について解説しましたが、どちらが得かは人によって異なります。
そもそも、企業型DCを利用できるかどうかは勤務先次第で、従業員に選択肢はありません。加入拒否は可能ですが、一般的ではありません。
企業が設ける企業年金制度や公的年金、老後の家計収支などを勘案して、老後に向けた資産形成が必要と判断すればiDeCoの活用を検討してみましょう。
ケース別の活用法
マッチング拠出の有無などケース別に、企業型確定拠出年金(企業型DC)とiDeCoの活用法について解説します。
ケース①企業型DCはあるがマッチング拠出はない
企業型DCはあるがマッチング拠出はない場合、iDeCoを利用するかどうかは従業員の状況によって判断します。
公的年金や企業年金だけでは老後生活が難しいと考えるならば、iDeCoの利用がおすすめです。掛金が全額所得控除できるなど、NISA(少額投資非課税制度)や個人年金保険と比較しても税制上の優遇措置が大きいためです。
ただし、掛金の支払いが厳しい時に、節税効果を狙ってiDeCoを利用するのはおすすめできません。現在の家計収支を維持しながら、余裕があればiDeCoに加入するのが一般的です。
また、iDeCoは60歳まで受け取りできないため、教育資金やマイホーム資金を優先する場合はNISAなど他の運用方法を検討しましょう。
ケース②企業型DCがあり、マッチング拠出もできる
企業型DCがありマッチング拠出もできる場合は、マッチング拠出またはiDeCoのどちらか一方を選択しなければなりません。両制度は併用できないためです。
マッチング拠出にも掛金の全額所得控除や運用益非課税、受け取り時の所得控除などiDeCoと同じ節税効果が期待できます。さらに、口座の管理手数料や運営手数料は企業が負担し、従業員は手続きも不要であるため、iDeCoにないメリットもあります。
ただし、企業型DCに希望する運用商品がない場合や企業型DCの掛金が小さい場合(マッチング拠出できるのは企業の拠出金額まで)、iDeCoも選択肢のひとつになるでしょう。
ケース③併用した方が良いケース
企業型DCがありiDeCoと併用した方が良いのは、老後資金を効率的に準備したいと考える人です。iDeCoは60歳まで受け取りできませんが、高い節税効果が期待できるためです。特に、所得が高い人ほど所得控除による節税効果が大きくなります。
企業型DCにマッチング拠出があればどちらかを選択しなければなりませんが、なければ老後資金準備する場合、まずはiDeCoの活用を検討してみましょう。
また、節税可能な制度をフルに活用したいと考える人にも、iDeCoはおすすめです。
既にNISAなどの非課税制度を利用している場合、必要に応じていつでも引き出せるNISAと老後資金準備としてのiDeCoを併用しても良いでしょう。
選び方の判断ポイント
企業型DCの利用可否は勤務先によって決まっているため、従業員は自由に選べません。マッチング拠出があれば、ケース別の活用法を参考にマッチング拠出、またはiDeCoを選択します。
iDeCoの利用は、公的年金や勤務先の制度、NISAなど他制度の利用状況などを総合的に検討して判断しましょう。
老後の家計収支や老後資金の必要額を概算して、追加で資産形成が必要ならばiDeCoは有効な選択肢と言えるでしょう。
まとめ
企業型確定拠出年金(企業型DC)とiDeCoは国民の老後に向けた資産形成を支援する制度のため、さまざまな税制上の優遇措置が設けられています。
ただし、企業型DCは勤務先に掛金や手数料などを負担してもらえる反面、制度導入の有無や掛金などが企業判断となるため従業員の選択肢は限定的です。
一方、iDeCoは年金制度加入者は原則加入でき、掛金や運用商品の選択肢が広いというメリットがあります。
企業型DCとiDeCoのどちらが得かは一概に言えませんが、老後に向けた資産形成の有力な選択肢として活用を検討してみましょう。
企業型DCとiDeCo、どちらを利用しようか悩んでいるあなたへ
マネイロでは将来のためのお金の診断・サービスを提供しています
▶3分投資診断:必要な老後資金と自分に合う投資がわかる
▶賢いお金の増やし方:専門家が解説する30分のWebセミナー
▶オンライン相談:iDeCoについて専門家に直接相談
※本記事の内容は記事公開時や更新時の情報です。現行と期間や条件が異なる場合がございます
※本記事の内容は予告なしに変更することがあります。予めご了承ください
オススメ記事
執筆・監修
西岡 秀泰
- 社会保険労務士/ファイナンシャルプランナー
同志社大学法学部卒業後、生命保険会社に25年勤務しFPとして生命保険・損害保険・個人年金保険販売を行う。保有資格は社会保険労務士と2級FP技能士。2017年4月に西岡社会保険労務士事務所を開設し、労働保険・社会保険を中心に労務全般について企業サポートを行うとともに、日本年金機構の年金事務所で相談員を兼務。