
「年金はいらないから返して」は通用する?払った保険料が返る「例外」と未納のリスク
≫あなたの老後はどうなる?将来の必要額をシミュレーション
「年金はいらない、自分で備えるから返してほしい」
「将来もらえるか不安だから保険料を納めたくない」
このような不安や不満を抱えている人も少なくないようです。しかし、日本の公的年金は個人の貯蓄とは異なり、社会全体で支え合う保険制度です。そのため、個人の意思で支払いをやめたり、払った保険料を返してもらったりすることは原則としてできません。
本記事では、年金制度の基本的な仕組みから、支払いをしない場合のリスク、そしてもしもの時にあなたや家族を支える年金の重要な役割まで、詳しく解説します。
- 年金保険料が原則返ってこない理由
- 払った保険料が戻る特殊なケース
- 年金を払い続けるメリットと未納のリスク
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「年金いらないから返して」は原則不可能
結論として、「年金はいらないから返してほしい」という個人の希望は、原則として認められません。日本の公的年金制度は、個人のための貯蓄ではなく、社会全体で高齢世代を支える「社会保険」という仕組みで成り立っているためです。また、法律によって加入と保険料の納付が義務付けられています。
貯金とは異なる「賦課方式」の仕組み
日本の公的年金制度は、個人が自分のために積み立てる「積立方式」とは異なり、「賦課方式(ふかほうしき)」という仕組みで運営されています。
賦課方式とは、現役世代が納めた保険料を、その時々の年金受給者への支払いに充てる制度です。これは、子どもが親に仕送りをするようなイメージで、社会全体で世代間の支え合いを実現する仕組みといえます。
納めた保険料は自分の将来のために積み立てられるのではなく、現在の高齢者世代の年金給付に使われます。
したがって、個人の都合で「返してほしい」と要求することは、原則不可能です。
日本国内に住む20〜60歳には加入義務がある
公的年金への加入は、個人の選択ではなく、法律で定められた国民の義務です。国民年金法に基づき、日本国内に住む20歳以上60歳未満のすべての人は、国民年金に加入し、保険料を納付する義務があります。
会社員や公務員は厚生年金に加入しますが、これも国民年金に上乗せされる形であり、加入義務を果たしていることになります。自営業者や学生、無職の方なども、第1号被保険者として国民年金に加入しなければなりません。「年金はいらない」という理由で、その義務を放棄することは認められていません。
払った年金が「返ってくる」3つの特殊ケース
年金保険料は原則として返還されませんが、ごく限られた特殊な状況下では、支払った保険料に相当する一時金が本人や遺族に支払われることがあります。これらはあくまで例外的な措置であり、誰もが利用できる制度ではありません。ここでは、その3つのケースについて解説します。
ケース1:脱退一時金(※短期滞在の外国人のみ)
日本国籍を持たない方が、国民年金や厚生年金の加入期間が6ヶ月以上ある状態で、受給資格期間(10年)を満たさずに帰国する場合、「脱退一時金」を請求できます。
2021年の改正により、支給額の計算に用いられる上限年数が「3年」から「5年」(※特定活動など一部要件を除く)に引き上げられています。
日本で数年間働いて帰国する外国人材にとって、掛け捨てを防ぐ重要な制度です。
ケース2:死亡一時金(遺族への還付)
「死亡一時金」は、国民年金の第1号被保険者として保険料を36ヶ月以上納めた方が、老齢基礎年金や障害基礎年金を受け取らずに亡くなった場合に、その遺族に支給される一時金です。ただし、残された家族が遺族基礎年金を受給できる場合、死亡一時金は出ません。
納めた保険料が掛け捨てになることを防ぐ制度で、納付月数に応じて12万円から32万円が支給されます。
亡くなった夫が第1号被保険者として10年以上保険料を納めており、婚姻期間が10年以上ある妻がいる場合は、「死亡一時金」の代わりに「寡婦年金」を受け取れる可能性があります。ただし、受け取れるのはどちらか一方のみです。受給総額は寡婦年金のほうが多くなる傾向があるため、寡婦年金を選ぶケースが一般的です。なお、遺族基礎年金を受け取れる場合、これらはいずれも支給されません。
ケース3:過誤納付の還付(重複払いの返金)
意図せず国民年金保険料と厚生年金保険料を同月に支払ってしまったり、納付義務のない期間に支払ってしまったりすることを「過誤納付」と呼びます。その場合、払い過ぎた保険料は還付金として返金されます。
過誤納付が発生する主なケース
- 自営業者から会社員になった
- 国民年金を1年分前納した年度の途中で就職すると、給与から厚生年金保険料が天引きされ、国民年金保険料と重複して支払う期間が生じることがあります。
- 月の途中で退職した
- 月の途中で退職し、月末時点で再就職していない場合、その月は国民年金に加入します。しかし、退職前の給与から厚生年金保険料が天引きされていると、二重払いが発生します。
- 海外へ転出した
- 海外へ転出届を提出すると国民年金の加入は任意になりますが、手続き後も口座振替などで保険料の支払いが続くと過誤納付となります。
還付手続きの流れ
過誤納付が発生した場合、日本年金機構から「国民年金保険料過誤納付還付・充当通知書」と「国民年金保険料還付請求書」が郵送されます。
請求書に氏名、住所、振込を希望する金融機関の口座情報などを記入し、同封の返信用封筒で返送します。手続き完了後、約1ヶ月から2ヶ月程度で指定口座に還付金が振り込まれます。ただし、国民年金保険料を口座振替で納付している場合、請求書の提出は不要です。口座振替口座に自動的に振り込まれます。
ただし、還付請求には2年の時効があるため、通知が届いたら速やかに手続きを行いましょう。また、未納の保険料がある場合は、還付金がそちらに充当されるのが一般的です。
「いらない」という前に知るべき年金のコスパ
「払った分、元が取れるのか」という視点で年金制度に不信感を持つ方も少なくありません。しかし、公的年金は単なる貯蓄ではなく、長生きリスクや物価上昇、税制面でも優れたコストパフォーマンスを持つ制度です。その具体的なメリットを解説します。
約10年の受給で元が取れる
国民年金(老齢基礎年金)は、長生きすればするほど有利になる制度設計になっています。一般的に、65歳から年金を受け取り始めてから約10年で、それまでに支払った保険料の総額を上回るといわれています。
払わずに貯めた場合と総受給額を比較
国民年金保険料を40年間(480ヶ月)納付した場合の総額は、約800万円です(保険料額により変動)。一方、2025年度の老齢基礎年金(満額)は年間83万1700円です。
単純計算すると、65歳から年金を受け取り始め、約10年後の75歳頃には支払った保険料の元が取れることになります。日本の平均寿命は男女ともに80歳を超えているため、多くの人が支払った保険料以上の年金を受け取れる計算です。
もし、保険料を払わずに同額を自分で貯蓄した場合、長生きすればするほど資金が枯渇するリスクがありますが、公的年金は生涯にわたって受け取れる終身保障である点が大きなメリットです。
物価上昇に合わせて増額される
銀行預金などの貯蓄は、インフレーション(物価上昇)によって実質的な価値が目減りしてしまうリスクがあります。例えば、100万円を貯金していても、物価が2倍になればその価値は実質的に半分になってしまいます。
一方、公的年金は、物価や現役世代の賃金の変動に応じて、毎年の支給額が見直される仕組みになっています。物価が上がれば年金額も増額改定されるため、インフレに強いという特徴があります。これにより、将来の購買力を維持しやすく、安定した老後生活を送るための重要な機能となっています。
全額所得控除で税金が安くなる
国民年金や厚生年金の保険料は、その年に支払った全額が「社会保険料控除」の対象となります。これは、所得税や住民税を計算する際の課税対象となる所得から、支払った保険料の全額を差し引くことができる制度です。
課税所得が減ることで、結果的に所得税や住民税の負担が軽減されます。例えば、年間の国民年金保険料が約20万円の場合、税率が20%(所得税10%+住民税10%)の方であれば、約4万円の節税効果が期待できます。これは、将来の保障を得ながら、現在の税負担も軽くできるという大きなメリットです。
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それでも「払いたくない」と感じる時に確認したいメリット
公的年金は、老後の生活費を保障する「老齢年金」だけの制度ではありません。現役世代にとって強力なメリットになり得るのが、予期せぬ事態に備える「保険」としての機能です。障害や死亡といった万が一の際に、自分や家族の生活を守る重要なセーフティネットとなります。
障害年金:病気や事故で働けなくなった時の保障
もし病気や事故が原因で体に障害が残り、日常生活や働くことが困難になった場合に支給されるのが「障害年金」です。これは、年齢に関わらず現役世代でも受け取れる可能性があります。
障害年金を受け取るためには、初診日(その病気やけがで初めて医師の診療を受けた日)時点で年金に加入しており、一定の保険料納付要件を満たしている必要があります。
保険料を未納にしていると、万が一の際にその保障を受けられなくなる可能性があります。民間の保険だけではカバーしきれないほどの長期的な所得保障となる、極めて重要な制度です。
遺族年金:万が一の時に家族を守る保障
年金の被保険者が亡くなった場合に、その方によって生計を維持されていた遺族(子のある配偶者または子など)の生活を支えるために支給されるのが「遺族基礎年金」です。
これも障害年金と同様に、亡くなった方が保険料の納付要件を満たしている必要があります。もし一家の大黒柱が突然亡くなった場合、残された家族の生活は困窮するかもしれません。遺族年金は、そのような悲劇から家族を守るための大切な社会保障制度です。これも、単なる貯蓄にはない「保険」としての年金の大きなメリットです。
お金がなくて払えない場合の対処法「免除制度」
経済的な理由で年金保険料の支払いが困難な場合でも、決して支払いを無視してはいけません。国民年金には、所得が低いなどの理由で保険料を納めるのが難しい方のために「保険料免除制度」や「納付猶予制度」が用意されています。これらの制度を正しく利用することが、将来のリスクを回避するために欠かせません。
未納(無視)はNG!必ず手続きをすべき理由
保険料の納付書を無視して「未納」の状態を続けることは、多くのリスクを伴います。
まず、日本年金機構から催告状や督促状が送付され、それでも納付しない場合は延滞金が加算されます。最終的には、預貯金や給与などの財産が差し押さえられる強制徴収の対象となる可能性があります。
さらに、未納期間は年金の受給資格期間に含まれないため、将来の老齢年金が受け取れなくなるだけでなく、万が一の際の障害年金や遺族年金の受給資格も失う恐れがあります。
支払いが難しい場合は、必ずお住まいの市区町村の窓口で免除や猶予の申請手続きを行いましょう。
全額免除でも将来の年金額の半分は保証される
保険料の免除制度を利用する大きなメリットは、将来受け取る老齢基礎年金の額にあります。保険料の「全額免除」が承認された期間は、保険料を全額納付した場合の2分の1の年金額が受け取れます。
例えば、1年間全額免除を受けた場合、保険料をまったく払っていなくても、半年分は払ったものとして年金額が計算されるのです。これは、未納(0月として計算)と比べて大きな差となります。
免除手続きをするだけで、将来の年金額を確保できるため、支払いが困難な場合は必ず申請すべきです。
学生なら「学生納付特例制度」を活用する
20歳以上の学生で、本人の所得が一定以下の場合に利用できるのが「学生納付特例制度」です。その制度は、在学中の国民年金保険料の納付が「猶予」されるもので、「免除」とは異なります。
猶予された期間は、老齢年金の受給資格期間には算入されますが、年金額の計算には反映されません。しかし、社会人になってから10年以内であれば、猶予された保険料を後から納める「追納」が可能です。追納することで、将来の年金額を満額に近づけることができます。学生時代に保険料を払えない場合は、未納にせず、その制度を必ず利用しましょう。
「年金いらない・返して」に関連するQ&A
ここでは、「年金はいらないから返してほしい」という考えに関連して、よくある質問とその回答を簡潔にまとめました。
Q. 国民年金の未納を続けるとどうなる?
督促状が届き、延滞金が加算されます。最終的には預貯金や給与などの財産を差し押さえられる可能性があります。
また、将来の老齢年金だけでなく、万が一の際の障害年金や遺族年金も受け取れなくなるリスクがあります。
Q. 年金の免除申請をしたらデメリットはある?
最大のデメリットは、保険料を全額納付した場合に比べて、将来受け取る老齢年金の額が少なくなる点です。
ただし、未納にするよりは有利であり、10年以内であれば、追納をすることで年金額を満額に近づけることも可能です。
まとめ
「年金はいらないから返してほしい」と考える方もいらっしゃるかもしれませんが、日本の公的年金が社会全体で支え合う「賦課方式」の社会保険であるため、この考えは原則として通用しません。
また、本記事で解説したように、そもそも「年金は加入したほうがお得」という認識を持っておくことが大切です。保険料を納めることは、将来の老齢年金を受け取る権利だけでなく、病気や事故で働けなくなった際の障害年金や、万が一の際に家族を守る遺族年金という、現役世代にとっての重要な「保険」に加入することでもあります。
未納を続けると、財産の差し押さえや、これらの保障をすべて失うリスクがあります。経済的に支払いが困難な場合は、決して放置せず、「免除・猶予制度」を必ず申請しましょう。手続きをするだけで、将来の年金受給権を確保し、リスクを大幅に軽減できます。
まずは年金制度を正しく理解し、将来設計に活かしていくことが、豊かな老後への第一歩です。
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監修
西岡 秀泰
- 社会保険労務士/ファイナンシャルプランナー
同志社大学法学部卒業後、生命保険会社に25年勤務しFPとして生命保険・損害保険・個人年金保険販売を行う。保有資格は社会保険労務士と2級FP技能士。2017年4月に西岡社会保険労務士事務所を開設し、労働保険・社会保険を中心に労務全般について企業サポートを行うとともに、日本年金機構の年金事務所で相談員を兼務。
執筆
マネイロメディア編集部
- お金のメディア編集者
マネイロメディアは、資産運用に関することや将来資金に関することなど、お金にまつわるさまざまな情報をお届けする「お金のメディア」です。正確かつ幅広い年代のみなさまにわかりやすい、ユーザーファーストの情報提供に努めてまいります。
