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離婚時の年金分割額シミュレーション|計算方法から手続きまでを解説

離婚時の年金分割額シミュレーション|計算方法から手続きまでを解説

年金2025/12/23
  • #老後資金

≫将来の資金は大丈夫?あなたのケースでシミュレーション

離婚時の年金分割ではいくらもらえる?」「手続きが複雑でよくわからない」といったお悩みはありませんか?離婚後の生活設計において、年金分割は老後の収入を左右する重要な制度です。

そこで本記事では、離婚時の年金分割の基本的な仕組みから、ケース別のシミュレーション、さらに具体的な手続き方法まで、分かりやすく解説します。将来のお金に関する不安を解消し、納得のいく形で新たな人生を歩み始められるよう、ぜひ最後までご覧ください。

この記事を読んでわかること
  • 年金分割の2つの制度(合意分割・3号分割)の違い
  • 具体的な年金分割額の計算方法とシミュレーション
  • 失敗しないための手続きの流れと注意点


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離婚時の年金分割でいくらもらえる?

離婚を考える際、将来の生活設計、とりわけ老後の資金計画は大きな不安要素となります。その中心にあるのが「年金分割」です。

年金分割は、離婚時に婚姻期間中の厚生年金保険料納付記録を夫婦で分け合うことで、将来の年金額の格差を是正するための重要な制度です。しかし、その仕組みが複雑であるため、「いくらもらえるのか見当がつかない」「手続きが難しそう」といった漠然とした不安を抱えている方も少なくないでしょう。

年金分割は単なる貯金の分配とは異なり、将来受け取る年金額の計算基礎となる「保険料納付記録」を分け合うものです。その点を正しく理解し、不安を解消しましょう。

年金分割は「貯金の分配」ではない

年金分割制度を理解する上でもっとも重要な点は、これが現金や預貯金のように、今ある資産を直接分け合う「財産分与」とは根本的に異なるということです。

年金分割は、婚姻期間中に納付した厚生年金の保険料記録(標準報酬月額・標準賞与額)を、夫婦間で分割する手続きを指します。つまり、分割するのはお金そのものではなく、将来受け取る年金額を計算するための「基礎となる記録」です。

その手続きによって、分割を受けた側(多くは収入が少なかった側)の年金記録が増え、将来受け取る老齢厚生年金が増額されます。反対に、分割をした側は自身の年金記録が減少するため、将来の年金額は減ることになります。また、手続きをしてもすぐに現金が手に入るわけではない点も理解しておく必要があります。

年金分割の基礎知識|2つの制度の違いを理解する

年金分割制度には、「合意分割」と「3号分割」という2つの種類が存在します。どちらの制度が適用されるかは、婚姻期間中の働き方によって決まります。

合意分割は、夫婦間の話し合いによって分割割合を決める基本的な方法です。

一方、3号分割は、専業主婦(主夫)など扶養されていた期間を対象に、話し合い不要で自動的に記録の半分が分割される制度です。

自分の状況がどちらに該当するのか、あるいは両方の制度を併用する必要があるのかを正しく理解することが、適切な手続きを進めるための第一歩となります。

合意分割とは?対象者と分割割合

合意分割は、婚姻期間中の厚生年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)を夫婦間の合意に基づいて分割する制度です。主に共働き夫婦や、専業主婦でも後述する3号分割の対象とならない期間がある人が利用できます。

合意分割は、婚姻していた期間全体の厚生年金記録について利用可能です。分割する割合(按分割合)は夫婦の話し合いによって決定しますが、上限は2分の1(50%)と定められており、下限はそれぞれの夫婦で異なります。

年金分割の合意が成立した場合には、離婚後2年以内に当事者双方で年金事務所に行って手続きします。公証人の認証済みの年金分割合意書や公正証書等の書面を作成した場合には、一方のみで手続きすることも可能です。

話し合いで合意に至らない場合は、家庭裁判所に調停または審判を申し立て、分割割合を決定することになります。実務上、裁判所の調停や審判に移行した場合は、特別な事情がない限り、按分割合は2分の1とされることがほとんどです。

3号分割とは?自動的に0.5で分割される条件

3号分割は、国民年金の「第3号被保険者」であった期間の年金記録を分割する制度です。第3号被保険者は、厚生年金に加入している配偶者に扶養されている方で、専業主婦(主夫)や年収130万円未満のパートタイマーの方などが該当します。

3号分割の大きな特徴は、相手の同意が不要である点です。分割割合も法律で2分の1(50%)と定められており、話し合いの必要がありません。第3号被保険者であった側が、離婚後に年金事務所で手続きを行うだけで、相手の厚生年金記録の半分を自分の記録として受け取ることができます。

注意点

ただし、対象となるのは2008年4月1日以降の第3号被保険者期間に限られます。それ以前の期間については、合意分割の手続きが必要となるため注意が必要です。

どちらの制度を使うべき?判断フローチャート

年金分割ができるのは、婚姻期間中、夫婦の少なくとも一方が厚生年金に加入していた期間がある場合です。「合意分割」と「3号分割」のどちらを利用すべきか、または両方を併用する必要があるかは、婚姻期間中の働き方によって決まります。以下の流れで確認してみましょう。

  1. 2008年4月1日以降に、専業主婦(主夫)や扶養内パートなど「第3号被保険者」だった期間はありますか?

  • はい → その期間は「3号分割」の対象です。相手の合意なく、年金記録の2分の1を分割請求できます。
  • いいえ → 3号分割の対象期間はありません。

  1. 2008年3月31日以前に第3号被保険者だった期間や、婚姻期間中夫婦共に厚生年金に加入していた期間はありますか?

  • はい → その期間は「合意分割」の対象です。夫婦間の話し合い(または調停・審判)で分割割合を決める必要があります。
  • いいえ → 合意分割の対象期間はありません。

例えば、2000年に結婚し、2010年まで専業主婦、その後共働きという場合は、2008年4月〜2010年までの期間が「3号分割」、それ以外の期間が「合意分割」の対象となり、両方を併用できます。

なお、合意分割の請求が行われた場合、婚姻期間中に3号分割の対象となる期間が含まれるときは、合意分割と同時に3号分割の請求があったとみなされます。したがって、上記のようなケースでは、婚姻期間全体を対象として合意分割の請求をすれば、3号分割も適用してもらえます。

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年金分割額の計算方法|按分割合0.5の意味

年金分割で実際にいくら年金が増えるのかを計算するためには、まず「標準報酬」という概念を理解する必要があります。これは年金額を計算する基礎となる、標準報酬月額と標準賞与額のことです。

年金分割は、その標準報酬の総額を夫婦で合算し、それを按分割合(通常0.5)で分け合うという考え方に基づいています。これにより、離婚後の年金額の偏りを調整できます。

年金分割で増える金額の計算式

年金分割によって、自身の年金記録(対象期間標準報酬総額)がどれだけ増えるかは、以下の計算式で算出できます。その計算は、分割を受ける側(通常は収入が少なかった側)の視点に基づいています。

 (夫婦の対象期間標準報酬総額の合計) × 按分割合 - (自分の対象期間標準報酬総額)

按分割合は、合意分割の場合は夫婦で決めた割合(上限0.5)、3号分割の場合は0.5となります。

例えば、夫の標準報酬総額が8000万円、妻が2000万円で、按分割合を0.5とすると、 (8000万円 + 2000万円) × 0.5 - 2000万円 = 3000万円 となり、妻の標準報酬総額に3000万円が加算されます。

加算された標準報酬総額をもとに、将来増える年金額(年額)が計算されますが、その計算式は生年月日や対象期間によって適用される乗率が異なるため複雑です。正確な金額は年金事務所で確認するのが確実です。

「情報通知書」の見方と重要な数字

年金分割額を計算する上で不可欠なのが、年金事務所から発行される「年金分割のための情報通知書」です。その書類には、分割の対象となる期間など、計算に必要な全ての情報が記載されています。

重要な数字は以下の2つです。

  1. 対象期間標準報酬総額 :婚姻期間中に納付された厚生年金の保険料の基礎となる給与・賞与の総額です。夫婦それぞれの金額が記載されており、年金分割額を計算する際の元データとなります。

  1. 按分割合の範囲:合意分割を行う際に、設定できる分割割合の範囲が示されています。通常は「〇.〇〇〇%を超え、50%以下」と記載されており、上限が0.5(50%)であることがわかります。

その情報通知書は、離婚前でも配偶者に知られることなく一人で請求することが可能です。まずはこの書類を取得し、自身の状況を正確に把握することが、具体的なシミュレーションを行うための最初のステップとなります。

具体的なシミュレーション|ケース別の計算例

年金分割の計算方法を理解したところで、具体的なモデルケースを用いて、実際にどの程度の年金額が増えるのかをシミュレーションしてみましょう。

ここでは、専業主婦、共働き、婚姻期間が短いといった典型的な3つのパターンに加え、按分割合が0.5でない場合の比較も行います。

ケース①:専業主婦期間20年、夫の平均年収500万円

このケースでは、妻は婚姻期間中ずっと専業主婦(第3号被保険者)であったと仮定します。

  • 婚姻期間:20年
  • 夫の平均年収:500万円(対象期間標準報酬総額:約1億円)
  • 妻の厚生年金加入歴:なし(対象期間標準報酬総額:0円)
  • 按分割合:0.5

まず、夫婦の標準報酬総額を合算します。 1億円(夫) + 0円(妻) = 1億円

次に、分割後の妻の標準報酬総額を計算します。 1億円 × 0.5 = 5000万円

この結果、妻の年金記録に5000万円が加算されます。これをもとに将来の年金額を概算すると、妻の老齢厚生年金は年額で約27.4万円増加する見込みとなります(※1946年4月2日以降生まれ、対象期間2003年4月以降の乗率で計算)。月額に換算すると約2.3万円です。

ケース②:共働き期間15年、収入差がある場合

このケースでは、夫婦ともに厚生年金に加入している共働き世帯を想定します。

  • 婚姻期間:15年
  • 夫の平均年収:600万円(対象期間標準報酬総額:約9000万円)
  • 妻の平均年収:300万円(対象期間標準報酬総額:約4500万円)
  • 按分割合:0.5

まず、夫婦の標準報酬総額を合算します。 9000万円(夫) + 4500万円(妻) = 1億3500万円

次に、分割後の妻の標準報酬総額を計算します。 1億3500万円 × 0.5 = 6750万円

妻の元の標準報酬総額は4500万円だったので、差額の2250万円が夫から妻へ移転します。これにより、妻の老齢厚生年金は年額で約12.3万円増加する見込みです(※1946年4月2日以降生まれ、対象期間2003年4月以降の乗率で計算)。月額では約1万円の増加となります。

ケース③:婚姻期間が短い場合(5年未満)

婚姻期間が短い場合、年金分割の対象となる保険料納付記録も少なくなるため、分割による影響は比較的小さくなります。

  • 婚姻期間:4年
  • 夫の平均年収:500万円(対象期間標準報酬総額:2000万円)
  • 妻の厚生年金加入歴:なし(対象期間標準報酬総額:0円)
  • 按分割合:0.5

夫婦の標準報酬総額の合計は2000万円です。これを0.5の割合で分割すると、妻の標準報酬総額は1000万円となります。

この結果、妻の老齢厚生年金は年額で約5.5万円増加する見込みです(※1946年4月2日以降生まれ、対象期間2003年4月以降の乗率で計算)。月額に換算すると約4600円となり、婚姻期間が長いケースに比べて増額幅は限定的です。しかし、それでも老後の貴重な収入源となるため、期間の長短にかかわらず手続きを行う価値はあります。

按分割合を0.5未満にした場合の比較

合意分割では、夫婦の話し合いによって按分割合を0.5(50%)未満に設定することも可能です。按分割合が変わると、分割される金額も変動します。

例えば、「ケース②:共働き期間15年」の例で比較してみましょう。

  • 夫婦の標準報酬総額の合計:1億3500万円
  • 妻の元の標準報酬総額:4500万円

按分割合

分割後の妻の標準報酬総額

分割後の妻の標準報酬総額

妻に加算される額

妻に加算される額

年金額の増加(年額概算)

年金額の増加(年額概算)

0.5

分割後の妻の標準報酬総額

6750万円

妻に加算される額

2250万円

年金額の増加(年額概算)

約12.3万円

0.4

分割後の妻の標準報酬総額

5400万円

妻に加算される額

900万円

年金額の増加(年額概算)

約4.9万円

ポイントの解説

このように、按分割合が0.5から0.4に下がるだけで、年金額の増加分は半分以下になります。特別な理由がない限り、按分割合は上限である0.5を目指して交渉することが、将来の生活設計において重要です。


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自分で概算を知る方法

年金事務所から「年金分割のための情報通知書」を取り寄せるのが一番正確ですが、その前段階として、ご自身で年金記録の概算を把握する方法もあります。

毎年誕生月に送られてくる「ねんきん定期便」や、インターネットサービス「ねんきんネット」を活用することで、これまでの保険料納付状況を確認できます。これらの情報から、婚姻期間中の標準報酬額をある程度推計し、分割額の目安を立てることが可能です。

ねんきん定期便から読み取れる情報

毎年誕生月に日本年金機構から送付される「ねんきん定期便」は、自身の年金記録を確認するための重要な書類です。

50歳未満の方のねんきん定期便には「これまでの保険料納付額」が記載されており、50歳以上の方のものには「老齢年金の見込額」が記載されています。詳細版である封書のねんきん定期便(35歳、45歳、59歳の節目に届く)には、月ごとの標準報酬月額が記載されているため、婚姻期間中の収入の推移をより具体的に把握できます。

これらの情報から、婚姻期間に該当する部分の標準報酬総額を大まかに計算することが可能です。

ただし、これはあくまでご自身の記録の確認であり、配偶者の記録は含まれません。正確な分割額を知るためには、やはり「年金分割のための情報通知書」の取得が必要です。

ねんきんネットでの確認方法

日本年金機構が提供するウェブサービス「ねんきんネット」を利用すれば、24時間いつでも年金記録をオンラインで確認できます。

ねんきんネットでは、これまでの保険料納付状況や、月別の標準報酬月額・標準賞与額の一覧などを詳細に閲覧することが可能です。これにより、「ねんきん定期便」よりも手軽に、かつ詳細に自身の記録を把握できます。

また、将来の年金見込額を様々な条件でシミュレーションする機能もあります。ただし、ねんきん定期便と同様に、確認できるのは自分の記録のみです。配偶者の記録は閲覧できないため、年金分割の正確なシミュレーションはできませんが、自身の状況を把握し、将来設計を考える上での有力なツールとなります。

年金分割の手続きの流れ

年金分割は自動的に行われるものではなく、自分自身で所定の手続きを踏む必要があります。手続きは4つのステップで構成されます。

まず、計算の基礎となる情報を年金事務所から入手し、次に夫婦間で分割割合を決定します。そして、離婚成立後に年金事務所へ分割を請求し、最終的に将来の年金受給へとつながります。各ステップの要点を押さえ、計画的に進めることが欠かせません。

STEP1:情報提供請求(離婚前でも可能)

年金分割手続きの最初のステップは、年金事務所に対して「年金分割のための情報提供請求」を行い、「年金分割のための情報通知書」を入手することです。この書類がなければ、正確な分割額の計算や話し合いを進めることができません。

この請求は、離婚成立前でも夫婦のどちらか一方が単独で行うことができ、相手に知られることもありません

請求には「年金分割のための情報提供請求書」のほか、基礎年金番号がわかる書類(年金手帳など)またはマイナンバーカード、戸籍謄本(または婚姻関係を証明できる書類)が必要です。

請求書は年金事務所の窓口や日本年金機構のWebサイトで入手できます。まずはこの情報通知書を取得し、分割の対象となる年金記録を正確に把握しましょう。

STEP2:按分割合の決定(合意または調停・審判)

「年金分割のための情報通知書」を入手したら、次に合意分割の対象となる期間について、分割割合(按分割合)を決定します。

まずは夫婦間の話し合いで合意を目指します。按分割合は上限である0.5(50%)で合意するのが一般的です。

もし夫婦間の話し合いで合意に至らない場合は、家庭裁判所に「年金分割の割合を定める調停または審判」を申し立て、裁判所を通じて割合を決定することになります。

STEP3:年金分割の請求(離婚後2年以内)

按分割合が決定したら、最終ステップとして年金事務所へ年金分割の請求手続きを行います。この手続きは「標準報酬改定請求」と呼ばれ、これを完了して初めて年金記録の分割が実行されます。

合意分割する場合には、離婚後に当事者双方が年金事務所に年金分割合意書を直接持参して手続きします。ただし、年金分割について定めた公正証書、公証人認証済みの年金分割合意書、調停調書などを持参すれば、1人で手続きができます。3号分割する場合には、1人で年金事務所に行って手続きできます。

この請求手続きには、原則として離婚が成立した日の翌日から2年以内という期限があります。この期限を過ぎてしまうと、たとえ夫婦間で合意があったとしても、年金分割を請求する権利が消滅してしまうため、十分に注意が必要です。

請求には「標準報酬改定請求書」のほか、基礎年金番号がわかる書類(またはマイナンバーカード)、戸籍謄本なども必要となります。必要書類を揃え、期限内に最寄りの年金事務所で手続きを完了させましょう。

STEP4:年金受給開始後の受け取り

年金分割の手続きが完了しても、すぐに分割された分のお金が振り込まれるわけではありません。分割によって変更された年金記録は、ご自身の記録に統合されます。

そして、将来自分自身が老齢厚生年金の受給開始年齢(原則65歳)に達したときに、増額された年金として生涯にわたって受け取ることになります。なお、すでに老齢厚生年金を受け取っている方の場合は、手続きをした月の翌月分から年金額が変更されます。

手続き完了後、日本年金機構から「標準報酬改定通知書」が送付されます。この通知書には分割後の新しい年金記録が記載されているため、内容を必ず確認し、大切に保管しておきましょう。

年金分割で失敗しないための注意点

年金分割は老後の生活を支える重要な制度ですが、手続きや制度の理解に誤りがあると、本来得られるはずの権利を失ってしまう可能性があります。

請求期限」は厳格に定められており、これを過ぎると救済措置はほぼありません。また、制度に関するいくつかの誤解も散見されます。ここでは、後悔しないために必ず押さえておくべき重要な注意点を解説します。

請求期限を過ぎると権利が消滅する

年金分割における一番の重要な注意点は、請求期限です。年金分割の請求は、原則として離婚が成立した日の翌日から2年以内に行わなければなりません。

この2年という期間は、夫婦間で分割に合意する期限ではなく、年金事務所で「標準報酬改定請求」の手続きを完了させる期限です。たとえ離婚時に公正証書で分割の合意を交わしていても、2年以内に年金事務所での手続きを終えなければ、分割を受ける権利は消滅してしまいます。

なお、改正民法施行に伴い、2026年4月以降、年金分割の期限は離婚が成立した日の翌日から5年以内に変更される予定です。

ポイントの解説

相手が死亡した場合は期限が死亡日から1ヶ月以内に短縮されるなど、例外的な規定もあります。離婚後は速やかに手続きに着手することが、権利を守る上で不可欠です。

通常の離婚協議書では年金分割はできない

合意分割を行う場合、夫婦が年金分割に合意していることがわかる書面が必要です。離婚後に当事者双方で年金事務所に行くことができる場合には、日本年金機構が用意している年金分割合意書に署名捺印して持参すればOKです。

参考:年金分割の合意書|日本年金機構

本人が行けない場合には代理人を立てることも可能ですが、1人が双方の代理人を兼ねることはできないため、必ず2人で年金事務所に行く必要があります。

2人で年金事務所に行くのが困難な場合には、以下の書面を持参することにより、1人で手続きができます。

公正証書の謄本または正本
公証人の認証を受けた年金分割合意書

また、裁判所で年金分割の合意をした場合には、調停調書審判書の謄本または正本を持参する必要があります。

注意点

離婚協議書の中に年金分割に関する条項を設け、「按分割合を0.5と定める」と記載しただけでは、年金分割はできません。夫婦2人で年金事務所に行くか、公的な書面が必要になるため注意しておきましょう。

年金分割しても相手の年金は減らない誤解

「年金分割をしても、相手が受け取る年金額は変わらない」という誤解がありますが、これは正しくありません。

年金分割は、夫婦の一方の年金記録をもう一方に分け与える制度です。そのため、分割を受けた側(収入が少なかった側)の将来の年金額が増える一方で、分割をした側(収入が多かった側)の年金記録は減少し、将来受け取る年金額もその分減額されます。

この点を相手が誤解していると、「なぜ自分の年金が減るのか」と反発を招き、分割の話し合いが難航する原因になり得ます。交渉の際には、年金分割が双方の将来の年金額に影響を与える制度であることを、お互いが正しく理解した上で進めることが大事です。年金事務所で取得した「情報通知書」をもとに、客観的なデータを示しながら説明するとよいでしょう。

3号分割の対象期間を正確に把握する

3号分割は相手の合意が不要で手続きが簡単なため、専業主婦(主夫)だった方にとって有利な制度です。しかし、その対象期間には制限があることを正確に理解しておく必要があります。

3号分割の対象となるのは、2008年4月1日以降に国民年金の第3号被保険者であった期間のみです。したがって、2008年3月31日以前の専業主婦(主夫)期間については、3号分割の対象外となります。

もし2008年3月31日以前にも婚姻期間があり、その間に相手が厚生年金に加入していた場合は、その期間について別途「合意分割」の手続きを行わなければ、年金記録の分割を受けることはできません。

ポイントの解説

自身のどの期間が3号分割の対象で、どの期間が合意分割の対象になるのかを、正確に確認することが必須です。

年金分割以外に確保すべきお金

年金分割は老後の生活の基盤となりますが、それだけで十分な老後資金を確保できるとは限りません。離婚時には、年金分割と並行して、他の制度も活用し、将来に向けた資産形成を考えることが鍵となります。

当面の生活資金やまとまった資産となる「財産分与」は年金分割と並ぶ重要な権利です。また、離婚後の自身の年金保険料の支払いをどうするか、年金以外の方法でどうやって老後資金を準備していくかについても、計画的に検討する必要があります。

財産分与との違いと併用

年金分割と財産分与は、どちらも離婚時に財産を分け合う制度ですが、その対象と性質が異なります。

  • 財産分与:婚姻期間中に夫婦が協力して築いた預貯金、不動産、株式、保険解約返戻金などの「資産」を分割する制度です。原則として2分の1ずつ分け合います。
  • 年金分割:婚姻期間中の厚生年金の「保険料納付記録」を分割する制度です。

財産分与は離婚後の当面の生活資金や、まとまった資産として活用できる一方、年金分割は将来の老齢年金として生涯にわたって受け取る収入源となります。これらはまったく別の制度であり、離婚時には両方を請求することが可能です。老後の生活を安定させるためには、年金分割だけでなく、財産分与もしっかりと請求し、確保することが不可欠です。

離婚後の年金保険料の支払い

離婚して配偶者の扶養から外れると、年金の加入状況が変わります。これまで専業主婦(主夫)などで第3号被保険者だった方は、ご自身で国民年金保険料を納める「第1号被保険者」になるか、就職して勤務先で厚生年金に加入し「第2号被保険者」になる必要があります。

離婚後に厚生年金に加入しない場合には、市区町村の役所で国民年金の加入手続きを忘れずに行いましょう。保険料の支払いが経済的に困難な場合は、免除や納付猶予の制度を利用できる可能性があります。未納期間があると、将来受け取る老齢基礎年金の額が減ってしまうだけでなく、万一の際の障害年金や遺族年金が受け取れなくなる可能性もあります。将来の保障を確実にするためにも、保険料の支払いは大切です。

老後資金の目安と追加の備え

年金分割によって将来の年金額が増加しても、それだけで老後の生活費をすべて賄うのは難しいのが現実です。金融庁の報告書を発端としたいわゆる「老後2000万円問題」が示すように、公的年金に加えて、ある程度の自己資金の準備が必要とされています。

離婚時に受け取る財産分与は、老後資金の重要な原資となります。これを単に生活費として取り崩すだけでなく、計画的に運用することも視野に入れましょう。

具体的な備えとしては、税制優遇のあるiDeCo(個人型確定拠出年金)やNISA(少額投資非課税制度)の活用が有効です。これらは、将来のために効率的に資産を形成するための制度です。年金分割を確実に行うと同時に、こうした自助努力による資産形成を組み合わせることで、より安定した老後生活の基盤を築くことができるでしょう。

離婚時の年金分割に関するQ&A

ここでは、離婚時の年金分割に関してよく寄せられる質問にお答えします。

Q. 年金分割すると相手にバレますか?

はい、必ず相手に伝わります。合意分割の場合は、按分割合を決める話し合いや手続きの過程で相手の協力が必要なため、知られることになります。

相手の合意が不要な3号分割の場合でも、手続きが完了すると、分割された側・分割した側の双方に「標準報酬改定通知書」が送付され、年金記録が変更されたことが通知されます。

Q. 年金分割は離婚前でも手続きできますか?

年金分割の請求手続き(標準報酬改定請求)自体は、離婚後でなければ行えません

しかし、その前段階の準備は離婚前から進めることが可能です。具体的には、計算の基礎となる「年金分割のための情報通知書」の請求や、合意分割の按分割合に関する話し合い、その合意内容を公正証書にするといった行為は、離婚成立前に行うことができます。

Q. 相手が年金を受給していなくても分割できますか?

はい、分割できます。年金分割は、相手が現在年金を受給しているかどうかとは関係ありません。対象となるのは、あくまで「婚姻期間中の厚生年金の保険料納付記録」です。

したがって、相手がまだ若く、年金の受給開始年齢に達していなくても、婚姻期間中に厚生年金の加入歴があれば、その記録を分割することが可能です。

まとめ

離婚時の年金分割は、将来の生活を支えるための重要な権利です。この記事では、年金分割の基本的な仕組みから、状況に応じた分割額のシミュレーション、そして具体的な手続きの流れまでを解説しました。

重要なポイントは以下の通りです。

  • 年金分割には「合意分割」と「3号分割」の2種類がある。
  • 計算の基礎となる「年金分割のための情報通知書」を早めに入手する。
  • 請求手続きは離婚後2年以内という厳格な期限がある。

年金分割は複雑な制度ですが、正しく理解し、計画的に手続きを進めることで、老後の経済的な不安を軽減することができます。自分自身での手続きに不安がある場合や、相手との話し合いが難航する場合には、弁護士などの専門家に相談することも有効な手段です。今回紹介した内容を、ぜひ人生の新しい一歩を踏み出すための参考にしてみてください。

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※本記事の内容は記事公開時や更新時の情報です。現行と期間や条件が異なる場合がございます

※本記事の内容は予告なしに変更することがあります。予めご了承ください

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監修
森本 由紀
  • 森本 由紀
  • ファイナンシャルプランナー/AFP(日本FP協会認定)/行政書士

行政書士ゆらこ事務所(Yurako Office)代表。愛媛県松山市出身。神戸大学法学部卒業。法律事務所事務職員を経て、2012年に独立開業。メイン業務は離婚協議書作成などの協議離婚のサポート。離婚をきっかけに自立したい人や自分らしい生き方を見つけたい人には、カウンセリングのほか、ライフプラン、マネープランも含めた幅広いアドバイスを行っている。法律系・マネー系サイトでの記事の執筆・監修実績も多数。

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執筆
マネイロメディア編集部
  • マネイロメディア編集部
  • お金のメディア編集者

マネイロメディアは、資産運用に関することや将来資金に関することなど、お金にまつわるさまざまな情報をお届けする「お金のメディア」です。正確かつ幅広い年代のみなさまにわかりやすい、ユーザーファーストの情報提供に努めてまいります。

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