
厚生年金の44年特例とは?廃止になる?事実上の終了時期と受給要件を解説
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厚生年金「44年特例」が廃止されるという情報を見かけ、自身の年金受給に影響があるのか不安に感じている方もいるかもしれません。しかし、実はこの制度は法的に「廃止」されるのではなく、生年月日によって「事実上の終了」が近づいています。
本記事では、この特例の終了時期や、対象者が受け取れる金額メリット、そして特例が適用された方が働き方を見直す際の重要な注意点について解説します。
- 厚生年金の44年特例の制度概要と、「事実上の終了」に向かっている理由
- 特例の適用を受けるために必須となる「厚生年金加入期間44年」の数え方
- 44年特例適用者が退職後に注意すべき在職中や失業給付との関係
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厚生年金の44年特例とは?
厚生年金44年特例について理解するためには、まず「特別支給の老齢厚生年金」について知っておく必要があります。
2025年11月現在、老齢基礎年金や老齢厚生年金の本来の支給開始年齢は65歳ですが、特定の条件を満たした場合、60歳から64歳の間に「特別支給の老齢厚生年金」を受けとることができます。この特別支給は、年金の支給開始年齢が65歳に引き上げられた際の経済的影響を和らげるために設けられた制度です。
特別支給の老齢厚生年金は、老齢基礎年金に相当する「定額部分」と、老齢厚生年金に相当する「報酬比例部分」で構成されています。特別支給の老齢厚生年金の支給開始年齢は引き上げが行なわれており、現在では原則定額部分は終了しました。
厚生年金の44年特例とは、厚生年金の加入期間が44年以上の人が特定の条件を満たしたとき、特別支給の「報酬比例部分」に加えて、「定額部分」を受け取れる制度を指します。
この特例が適用されると、65歳までの年金(特別支給の老齢厚生年金)が増額します。
厚生年金の44年特例は廃止?いつから使えなくなる?
結論からいうと、厚生年金44年特例は法的な「制度廃止」ではなく、特例の根拠となる「特別支給の老齢厚生年金」制度そのものの終了に伴い、適用対象者がいなくなる、「事実上の終了」です。
特別支給の老齢厚生年金は、本来の支給開始年齢が65歳に段階的に引き上げられる過程で生じた暫定的な制度です。この移行措置が完了し、「特別支給の老齢厚生年金」制度自体が終了に向かっているため、それに付随する44年特例も自動的に適用対象者がいなくなるというわけです。
この「事実上の終了」時期は男女で異なります。以下で詳しく見ていきましょう。
男性は昭和36年4月2日以降生まれから特例対象外
特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)の支給開始年齢は、生年月日によって異なっています。男性の場合、昭和36年4月2日以降生まれの方(現在64歳以下の方)は特別支給の老齢厚生年金は受給できません。そのため、44年特例も対象外となります。
女性は昭和41年4月2日以降生まれから対象外
女性の場合、男性よりも5年遅れで支給開始年齢の引き上げが進められています。そのため、特別支給の老齢厚生年金(=44年特例)の対象外となる境界線は、男性より5年遅い昭和41年4月2日以降生まれの方となります。
44年特例を受けるための3つの厳格な要件とカウント方法
44年特例の適用を受けて定額部分を受け取るためには、いくつかの厳格な要件を満たす必要があります。
この特例は「特別支給」にかかる特例であるため、まず、老齢基礎年金の受給資格期間(10年)があること、厚生年金保険に1年以上加入していたこと、そして生年月日に応じた報酬比例部分の受給開始年齢に達していることなど、特別支給を受けるための基本条件を満たしていることが前提となります。
その上で、以下の3つの主要な要件を満たす必要があります。
1. 厚生年金加入期間44年(528月)以上
特例が適用されるためのもっとも重要な条件は、厚生年金保険の加入期間が44年以上(528月)であることです。
厚生年金加入期間44年(528月)の数え方と注意点
44年以上の加入期間をカウントする際には、厳格なルールがあります。厚生年金保険の被保険者期間には、以下のいずれか1つの期間のみで44年以上ある場合に限られます。
- 日本年金機構の管理する厚生年金保険被保険者期間
- 公務員共済組合に加入している厚生年金保険被保険者期間
- 私学共済に加入している厚生年金保険被保険者期間
これらの期間は合算しません。例えば、会社員として日本年金機構の厚生年金に25年加入し、公務員共済組合に20年加入していたとしても、それぞれ単独で44年以上を満たしていない場合、長期加入者特例は適用されません。
2. 厚生年金保険の被保険者ではないこと(退職等)
44年特例による定額部分の受給条件の1つは、特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)の受給権者が、厚生年金の被保険者でないことです。年金受給中に退職した場合、被保険者でなくなった月の翌月分から定額部分の受取が開始されます。
国家公務員共済組合連合会の見解でも、長期加入者特例の適用が受けられるのは、「厚生年金の被保険者でないこと」が条件とされています。
仮に公務員として44年以上在職した後、民間会社等に再就職して厚生年金の被保険者となっている間は、この特例の適用は受けられません。
3. 特別支給の老齢厚生年金の支給開始年齢に達していること
特例の適用は、特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)を受給していることが前提です。したがって、生年月日に応じた支給開始年齢に達していることが必要です。
対象となるのは男性は昭和36年4月1日以前生まれ、女性は昭和41年4月1日以前生まれの方で、支給開始年齢は生年月日に応じて段階的に設定されています。
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「働きながらもらう」は損?在職中の落とし穴と注意点
44年特例の適用によって定額部分を受け取り始めた方が、その後に働き方を考える際には、年金の支給停止に関する落とし穴が存在するため、慎重に検討する必要があります。
「被保険者資格の取得」の罠
44年特例の最大のデメリットは、再就職等で「厚生年金の被保険者」になった時点で「定額部分」が全額カットされることです。
通常の「在職老齢年金」では、給与と年金の合計が基準額(2025年度は51万円)を超えなければ年金は減額されません。しかし、44年特例の「定額部分」については、この基準額は関係ありません。
給与がいくら安くても、厚生年金の被保険者になった時点で、定額部分は全額支給停止となります。(なお、報酬比例部分は通常の在職老齢年金の計算対象となり、収入によっては支給されます。)
そのため、定額部分を受け取りたい場合は、厚生年金に加入しない働き方(週20時間未満のパート、業務委託など)を選ぶ必要があります。
パート・アルバイトの「適用拡大」にも要注意
短時間で働くパートやアルバイトであっても、厚生年金の被保険者資格を取得する可能性があります。
特に近年は、厚生年金保険の「適用拡大」が進んでいます。例えば、従業員51人以上の企業などで、週20時間以上、月額賃金8万8000円(年収105万6000円)以上などの要件を満たすと、強制的に厚生年金に加入することになります。
良かれと思って働き始めた結果、特例によって受け取れていた定額部分が停止され、結果として「働き損」となるケースもあります。
このリスクを回避するための対策としては、個人事業主や業務委託として働く、あるいは週20時間未満など、厚生年金の被保険者とならない働き方を選択する必要があります。
雇用保険(失業給付)をもらうと年金は止まる
退職した方が失業給付(基本手当)を受給する場合も注意が必要です。
44年特例が適用されて年金を受け取れるようになった後、ハローワークで求職申込み(失業保険の手続き)を行い、失業給付を受ける期間については、特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分と定額部分)が全額停止されます。
したがって、退職後には、「年金をもらう」か「失業給付をもらう」かの選択が必要となります。
失業給付のほうが年金よりも金額が多いこともあるため、それぞれの受給額を比較し、より有利な方を選択することになります。
厚生年金の44年特例に関するQ&A
厚生年金の44年特例に関してよくある疑問・質問に回答し詳しく解説します。
Q. 年金44年特例はいつまで(何歳まで)もらえる?
44年特例によって定額部分が上乗せされて支給されるのは、65歳になるまでです。65歳に到達すると、老齢基礎年金と本来の老齢厚生年金(65歳からの年金)の受給に切り替わるため、定額部分を含めて特別支給の老齢厚生年金は終了します。
Q. 44年特例は申請が必要ですか?手続きは?
原則として、44年特例による定額部分を受け取るための届出を、受給者の方がする必要はありません。受給者の方が退職し、事業所が被保険者資格喪失届を年金事務所に提出することで、長期加入者の特例に該当する手続きも併せて行われます。
ただし、加給年金額の対象者(子や配偶者)がいる場合は、「老齢厚生年金・退職共済年金 加給年金額加算開始事由該当届」などの提出が必要になります。
特別支給の老齢厚生年金を受給中ですでに加給年金額の対象者の登録を行っている場合は、「老齢厚生年金 加給年金額加算開始事由該当届(生計維持申立書)」を退職日から1ヶ月経過後に提出する必要があります。
Q. 雇用保険(失業保険)をもらうとどうなる?
退職後に雇用保険の失業給付を受ける場合は、特別支給の老齢厚生年金(44年特例で支給される定額部分を含む)は全額支給停止されます。
受給者は、失業給付と年金のどちらか一方を選択する必要があります。
まとめ
厚生年金の44年特例は、厚生年金加入期間が44年以上ある方が、退職し被保険者でなくなった場合に、特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)に定額部分が加算される制度です。この特例は「特別支給の老齢厚生年金」の終了に伴い、「廃止」ではなく、男性は昭和36年4月2日以降、女性は昭和41年4月2日以降に生まれた方は対象外となり、事実上の終了に向かっています。
この特例の適用を受けるためには、「日本年金機構」「公務員共済組合」「私学共済」のいずれか1つの期間のみで44年以上を満たす必要があり、期間の合算はできないという厳格な要件を理解しておくことが不可欠です。
44年特例は、本来支給されない定額部分を受け取れることがメリットです。厚生年金に44年以上加入した人は、退職して特例を利用するか、そのまま働き続けて収入を維持するか、メリットとデメリットを理解した上で慎重に検討することが大切です。
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監修
西岡 秀泰
- 社会保険労務士/ファイナンシャルプランナー
同志社大学法学部卒業後、生命保険会社に25年勤務しFPとして生命保険・損害保険・個人年金保険販売を行う。保有資格は社会保険労務士と2級FP技能士。2017年4月に西岡社会保険労務士事務所を開設し、労働保険・社会保険を中心に労務全般について企業サポートを行うとともに、日本年金機構の年金事務所で相談員を兼務。
執筆
マネイロメディア編集部
- お金のメディア編集者
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