
厚生年金の会社負担分はどこへ?ねんきん定期便にない「消えた半分」の行方と影響
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「厚生年金の会社負担分はどこへ行った?」「ねんきん定期便に自分の負担分しか載っていないのはなぜ?」と不安に感じる方もいらっしゃるでしょう。実はそのお金、消えたわけではありません。会社負担分は、将来の給付を受ける「権利」として確実に確保されています。
本記事では、会社員と事業主が折半している厚生年金保険料の行方と、2025年4月から変更された「ねんきん定期便」の新しい記載について、分かりやすく解説します。
- ねんきん定期便に記載されていなかった厚生年金保険料の会社負担分の行方
- 2025年4月以降のねんきん定期便記載内容の変化と背景
- 会社負担分を含む厚生年金制度のコストパフォーマンス
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厚生年金の会社負担分はどこへ行った?
厚生年金保険料は、給与から天引きされる被保険者(本人)負担分と、会社が別途負担する事業主負担分が同額であり、合計額が年金制度に納付されます。
この納付された保険料がどこへ行くかというと、「年金特別会計」に入ります。日本の公的年金制度は「賦課方式」という、現役世代が納めたお金を、現在の高齢者への年金支払いに充てるという仕組みを採用しています。
そのため、銀行預金のように個人の名前で「現金」が積み立てられているわけではありません。しかし、これは決して「掛け捨て」ではなく、「納付実績(標準報酬月額)」という記録として保存されています。
会社が払った分も含めた納付実績に基づき、将来の年金額が計算されるため、会社負担分は「自分のため」の保障として確実に機能しています。
ねんきん定期便に「会社負担分」の記載がない(なかった)理由
長らく「ねんきん定期便」には、納付された厚生年金保険料総額のうち、ご本人(被保険者)負担分しか表示されていませんでした。
SNSなどでは「給付額を多く見せるための隠蔽ではないか」といった批判もありましたが、この記載方法には、制度が生まれた歴史的背景と実務上の理由があります。
理由1:「消えた年金問題」対策として設計されたため
最大の理由は、ねんきん定期便が2007年の「消えた年金問題」をきっかけに生まれたツールだからです。 当時の導入目的は、「国が管理している記録」と「本人の記憶(給与明細の天引き額など)」を突き合わせ、記録漏れがないかを確認してもらうことでした。
給与明細には「本人負担分」しか載っていません。もし定期便に「会社負担分」まで載せてしまうと、金額が一致せず、確認作業(答え合わせ)の手間になってしまうため、あえて本人負担分のみを記載する設計となっていました。
理由2:税制上の混乱を防ぐため
もう1つの理由は、税金の手続きにおける混乱回避です。 年末調整や確定申告で使える「社会保険料控除」は、本人が負担した分だけが対象です。会社負担分は事業主の経費であり、個人の控除対象ではありません。
もし定期便に合計額(本人+会社分)を記載してしまうと、誤って「合計額」を税務署に申告してしまうリスクがありました。こうした誤申告トラブルを防ぐ意図からも、記載が見送られてきた経緯があります。
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【2025年4月~】ねんきん定期便に会社負担分の情報が追加
公的年金制度に対する信頼性を高めるため、厚生労働省はねんきん定期便の記載内容の見直しを行いました。
この見直しは、SNSを中心に事業主負担の記載がないことが不透明であるという批判が出たことへの対応策の一つです。
2025年4月以降に発行されたねんきん定期便等には、「事業主も加入者と同額の保険料を負担している旨」が記載されるようになっています。 これにより、加入者本人が「給与明細に記載されている金額の、実は2倍の額が将来の年金等の計算基礎として記録されている」という事実を、より実感できるようになりました。
参考:ねんきん定期便、保険料の事業主負担を明記へ|日本経済新聞
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会社負担分は本当に還元されている?影響を試算
会社負担分は、老後の年金給付として還元されています。会社負担分は、単に本人負担分が「半分で済んでいる」という経済的なメリットにとどまらず、将来の年金額全体を決定する重要な要素となっています。
会社負担分が「将来の年金額」を決める仕組み
厚生年金による将来の年金額は、「払った額」がそのまま戻ってくる積立方式とは異なり、「標準報酬月額(ランク)」と「加入期間」によって計算される仕組みです。
標準報酬月額は月々の給与に応じて決定されますが、この標準報酬月額に基に保険料と将来の給付額が計算されます。保険料は「標準報酬月額×保険料率(18.3%)」で計算しますが、会社が半分を負担することで本人負担分は標準報酬月額の9.15%に抑えられます。
さらに、現役世代に万が一の事態があった場合にも重要です。遺族年金や障害年金といった保障制度においても、標準報酬月額(ランク)で年金額が計算されます。
モデルケースで試算:見えない給料の効果
厚生年金制度における会社負担分の経済的な影響を理解するために、具体的なモデルケースで試算してみましょう。 モデルケース: 月収30万円(標準報酬月額30万円)の会社員
- 毎月の保険料総額: 5万4900円(現在の保険料率18.3%で計算)
- 本人負担分: 2万7450円
- 会社負担分: 2万7450円
もし、この方が国民年金だけに加入していた場合(月額保険料1万7510円/2025年度水準)と比較すると、厚生年金では、本人が支払う2万7450円に対し、会社が同額を負担することで、トータル5万4900円に基づく年金受給権を確保できます。このため、厚生年金は国民年金のみと比較して加入者にとって「コスパが良い(給付乗率が高い)」制度といえます。
結論として、会社負担分は、厚生年金保険料を半額支払ってもらうという形で「見えない給料」として働き本人に還元されるのです。
厚生年金保険料の会社負担分が持つもう1つの役割
厚生年金保険料を単に老後の「貯金」として見ると、賦課方式であるため「損」に感じることもありますが、この制度は老後のための貯蓄機能だけでなく「保険」としての機能も持っています。
会社負担分は、この保険機能、特に万が一の保障の原資に直結しています。
民間保険では実現困難な「障害厚生年金」のコスパ
公的年金の給付を民間保険などで準備しようとすると、保険料は公的年金より高額になります。公的年金の主な給付は、老齢年金と障害年金、遺族年金です。
これらを民間保険で代替するには「個人年金保険(老齢年金の役割)」と「医療保険などの障害保障部分(障害年金の役割)」、「死亡保険((遺族年金の役割))」の加入が必要となるからです。
さらに、厚生年金保険料は会社が半分負担してくれるため、本人負担分だけを考えると民間保険では実現困難な高コスパ保険といっていいでしょう。
「会社負担分は国の借金返済に使われる」は本当?
公的年金制度について、納めた保険料が年金以外の目的に流用されているのではないかという懸念がSNS等で時折聞かれます。しかし、これは事実とは異なります。
年金財政には、主に現役世代の保険料を現在の高齢者に支払う「賦課方式」の部分と、将来の給付に備えて積み立て、運用する「年金積立金」(GPIFが運用)の部分があります。
過去には国鉄清算事業団等への流用疑惑などが話題となりましたが、現在、年金財政は「年金特別会計」として一般会計(国の通常の予算)とは明確に区分(分別管理)されています。
集められた保険料や積立金は、年金給付およびその事業運営のためにしか使えないことが法律で定められており、国の借金返済などの目的外に使用されることはありません。
厚生年金の会社負担に関するQ&A
厚生年金の会社負担に関して、よくある疑問や質問に回答します。
Q. 退職時に会社負担分を返してもらえる?
いいえ、もらえません。
厚生年金は「個人の貯金」ではなく、「将来の年金受給権を確保する保険」です。会社負担分も含めた保険料は、将来的に老齢・障害・遺族の各年金として還元されます。
つまり、現金では戻りませんが、将来の年金が増える形で自分に戻ってきます。
Q. パートやアルバイトでも会社負担分はある?
厚生年金に加入する要件を満たし、厚生年金の被保険者となった場合には、会社負担分も必ず発生します。
厚生年金保険料は、被保険者(本人)と事業主で折半することと定められています。したがって、正社員の方であろうと、所定の要件を満たしたパートタイムやアルバイトの方であろうと、厚生年金に加入している以上、事業主はご本人と同額の保険料を負担する義務があります。
Q. 会社負担分の記載がないのは「厚労省の陰謀」や「隠蔽」という噂は本当?
従来、記載がなかった理由に、ねんきん定期便がもともと「消えた年金問題」の対策ツールとして生まれたことが挙げられます。 当時の最優先事項は、本人が「手元の給与明細(天引き額)」と「国の記録」を照らし合わせて、記録の漏れ・誤りがないかを確認することでした。
ここに給与明細に載っていない数字(会社負担分)を混ぜてしまうと、金額が一致せず、本来の目的である「記録の答え合わせ」ができなくなってしまうため、記載がありませんでした。
一方、その実務的な配慮が、結果として「負担総額が見えない」「不都合な事実を隠しているのでは」という不信感を生んでしまったのも事実です。
こうした批判を受けて、公的年金制度の透明性を高めるため、2025年4月からは方針を転換し、ねんきん定期便等に事業主負担分の説明を記載し改善が行われています。
まとめ
厚生年金の会社負担分の説明が長らくねんきん定期便に記載されていなかったのは、「給与明細との照合(記録確認)」を最優先した結果であり、同時に税制上の誤申告を防ぐための実務的な配慮でした。
標準報酬月額に基づく保険料は「仕送り(賦課方式)」として現在の年金給付に使われていますが、将来、標準報酬月額に基づいて年金を受給できます。保険料は標準報酬月額の20%弱と高額ですが、会社が保険料を半分負担してくれます。そのため、会社負担分は「見えない給料」とよばれることもあります。
また、厚生年金は老後の生活保障だけでなく、障害・遺族年金という保険機能も備えています。会社負担分は、将来の生活保障のためにしっかり役立っていることを覚えておきましょう。
≫年金で足りる?あなたの将来の必要額を3分で診断
年金制度が気になるあなたへ
老後をお金の不安なく暮らすために、まずは自分にとっての必要額を知ることから始めましょう。マネイロでは、老後資金づくりをサポートする無料ツールを利用いただけます。
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監修
西岡 秀泰
- 社会保険労務士/ファイナンシャルプランナー
同志社大学法学部卒業後、生命保険会社に25年勤務しFPとして生命保険・損害保険・個人年金保険販売を行う。保有資格は社会保険労務士と2級FP技能士。2017年4月に西岡社会保険労務士事務所を開設し、労働保険・社会保険を中心に労務全般について企業サポートを行うとともに、日本年金機構の年金事務所で相談員を兼務。
執筆
マネイロメディア編集部
- お金のメディア編集者
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