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年金の繰上げ受給で「よかった」と感じる人の特徴~後悔しないための判断ポイントを解説

年金の繰上げ受給で「よかった」と感じる人の特徴~後悔しないための判断ポイントを解説

年金2025/12/26
  • #老後資金

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「年金を繰上げ受給してよかった」と感じる人には、共通する背景があります。早めに受け取ることで生活資金に余裕が生まれたり、健康面や働き方に合わせて安心して暮らせたりするケースです。

一方で、受給額は減るため、誰にとっても正解とは限りません。

本記事では、繰上げ受給をして「よかった」と感じやすい人の特徴や、繰上げ受給をすると損しやすい人後悔しないための判断のポイントについて、専門家監修のもとわかりやすく解説します。

この記事を読んでわかること
  • 繰上げ受給で「よかった」と感じる人の実例
  • 繰上げ受給の基本知識と後悔するケース
  • 繰上げ受給をすべきかどうかの判断手順


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繰上げ受給を選んで「よかった」と感じる人の実態

年金の繰上げ受給は、受給額が減額されるというデメリットがある一方で、多くの人がその恩恵を感じています。

経済的な不安の解消や、早期リタイアによる自由な時間の確保など、個々のライフプランに合わせて活用することで、理想に近い老後生活を実現しているケースは少なくありません。

ここでは、具体的にどのようなケースで「よかった」と感じているのかを見ていきましょう。

早期退職後の生活資金として活用できた

60歳で定年退職した人にとって、繰上げ受給は65歳までの生活を支える貴重な収入源となります。再雇用を選ばずにリタイアした場合、年金受給開始までの期間は収入が途絶えがちです。

実際に62歳で繰上げ受給を選択した男性は、「再雇用を選択しなかったので、年金を65歳から受給するか繰上げ受給するかで悩んだ。その後、繰上げ受給することに決めてから生活に安心感が生まれている」と語っています。

繰上げ受給はリタイア後の生活に経済的な安定をもたらし、精神的な余裕を生み出す一助となることがあります。計画的なリタイアメントプランの一部として、有効な選択肢の一つと言えるでしょう。

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健康不安があり早めに受け取れてよかった

自身の健康状態に不安がある場合、年金を確実に受け取れる繰上げ受給は選択肢の1つです。将来、病気などで長く生きられない可能性を考慮すると、年金額が減ることよりも「元気なうちに受け取れる」というメリットが上回ることがあります。

医師から余命宣告を受けている場合や、重篤な病気により長期生存が難しいと判断されるケースでは、繰上げ受給が合理的な選択となる可能性が高いでしょう。

趣味や旅行を楽しむ時間を優先できた

元気なうちに人生を楽しみたい」という価値観を持つ人にとって、繰上げ受給は有効な手段です。年金収入を早期に確保することで、仕事のペースを落としたり、完全にリタイアしたりして、趣味や旅行など自分の時間を満喫できます。

配偶者の年金と合わせて老後の収入が安定した

夫婦世帯の場合、どちらか一方が繰上げ受給を選択し、もう一方は65歳から、あるいは繰り下げて受給するなど、柔軟な組み合わせが可能です。これにより、世帯全体の収入を最適化し、安定した生活設計を立てることができます。

例えば、夫が年下で厚生年金が手厚い場合、年上の妻が先に繰上げ受給を開始して、60歳で再雇用された夫が65歳になるまでの収入を補うといったプランが考えられます。

個人の年金額だけで判断するのではなく、夫婦それぞれの年金見込額や働き方、健康状態などを総合的に考慮し、世帯単位で最適な受給プランを組み立てることが、安定した老後生活につながります。

年金繰上げ受給の基本知識|減額率と仕組み

年金の繰上げ受給を検討する上で、制度の基本的な仕組みを正しく理解しておくことは不可欠です。受給額に直接影響する「減額率」の計算方法や、手続きの流れ、注意点を把握しておかなければ、後悔につながる可能性があります。

繰上げ受給の定義から具体的な計算方法、そして申請手続きに至るまで、知っておくべき基本知識をわかりやすく解説します。

繰上げ受給とは?減額率の計算方法

年金の繰上げ受給とは、本来65歳から受け取る老齢年金(老齢基礎年金・老齢厚生年金)を、60歳から65歳になるまでの間に前倒しで受け取る制度です。早く受け取れる代わりに、年金額は請求した時点の年齢に応じて減額され、その減額率は生涯変わりません。

減額率は、1ヶ月早めるごとに0.4%(昭和37年4月2日以降生まれの人)です。これは2022年4月の制度改正で、それまでの0.5%から緩和されました。ただし、1962年4月1日以前生まれの人は従来通り0.5%です。

具体的な計算方法は以下の通りです。

  • 減額率 = 0.4% × 繰上げ請求月から65歳になる月の前月までの月数

例えば、60歳0ヶ月で請求した場合、繰上げる月数は60ヶ月(5年)となるため、減額率は24%(0.4% × 60ヶ月)となります。その場合、本来受け取れるはずだった年金額の76%を生涯受け取ることになります。

繰上げ受給を開始する年齢

減額率

減額率

65歳時点を100%とした場合の支給率

65歳時点を100%とした場合の支給率

60歳0ヶ月

減額率

24.00%

65歳時点を100%とした場合の支給率

76.00%

61歳0ヶ月

減額率

19.20%

65歳時点を100%とした場合の支給率

80.80%

62歳0ヶ月

減額率

14.40%

65歳時点を100%とした場合の支給率

85.60%

63歳0ヶ月

減額率

9.60%

65歳時点を100%とした場合の支給率

90.40%

64歳0ヶ月

減額率

4.80%

65歳時点を100%とした場合の支給率

95.20%

注意点

なお、昭和37年4月1日以前生まれの人の減額率は、1ヶ月あたり0.5%(最大30%)が適用されるため注意が必要です。

繰上げ受給の手続き方法と注意点

繰上げ受給の手続きは、原則として60歳に達した日以降に、お近くの年金事務所または街角の年金相談センターで行います。手続きには「老齢年金請求書」と「繰上げ請求書」のほか、本人確認書類などが必要となります。

手続きを進める上で、一番の注意点は「一度請求すると、原則として取り消しや変更ができない」ということです。請求後に健康状態や経済状況が変化しても、減額された年金額を元に戻すことはできません。

また、以下の点にも留意が必要です。

  • 老齢基礎年金と老齢厚生年金は原則同時に繰り上げる必要がある:片方だけを繰り上げることはできません
  • 他の年金制度への影響:繰上げ受給をすると、障害年金の事後重症請求や寡婦年金などを請求できなくなります
  • 国民年金の任意加入や追納が不可に:繰上げ請求後は、国民年金保険料を後から納めて年金額を増やすことができなくなります

これらの注意点を十分に理解し、将来のライフプランを慎重に検討した上で、最終的な判断を下すことが求められます。

(参考:65歳前に年金を繰り上げて受け取りたいとき|日本年金機構
(参考:年金の繰上げ受給|日本年金機構


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繰上げ受給が「よかった」と言える人の条件

年金の繰上げ受給は、すべての人にとって最適な選択とは限りません。しかし、特定の状況や価値観を持つ人にとっては、デメリットを上回るメリットをもたらすことがあります。

どのような条件に当てはまる人が、繰上げ受給によって「よかった」と感じられるのでしょうか。繰上げ受給が向いている人の主な特徴について見ていきましょう。

当面の生活資金が必要な人

60歳から65歳までの間に、定年退職や失業、病気などで収入が途絶え、貯蓄だけでは生活の維持が困難な場合、繰上げ受給は有効な選択肢となります。

例えば、失業が長期化して貯蓄が底をついた、あるいは病気で働けなくなり生活費に困窮しているといった深刻な状況では、減額を承知の上で早期に年金を受け取ることが、当面の生活を支える上で不可欠になるケースがあります。

ただし、これはあくまで最終手段と考えるべきです。

まずは公的な支援制度(失業保険生活保護など)の活用を検討し、それでもなお資金が不足する場合に、繰上げ受給を慎重に判断することが推奨されます。

健康面で不安がある人

平均寿命よりも早く亡くなる可能性が高いと考える場合、繰上げ受給は合理的な選択となり得ます。年金の損益分岐点は一般的に80歳前後とされており、それより長生きしないと65歳受給に比べて総受給額で不利になります。

そのため、医師から余命が短いと宣告されている場合や健康状態、あるいは家族歴(親族が短命であるなど)から長期の生存が難しいと判断される場合には、確実に年金を受け取れる繰上げ受給のメリットが増します。

その場合、将来の年金額の減少を心配するよりも、生きている間に受け取れる金額を重視するという判断になります。

充実した老後生活を優先したい人

生涯の受給総額よりも、「元気なうちにやりたいことをやりたい」という価値観を重視する人にも、繰上げ受給は向いています。60代前半は、体力や気力が充実している時期であり、その期間に趣味や旅行、社会貢献活動などに時間を使いたいと考える人は少なくありません。

早期に年金収入を得ることで、仕事を辞めたり、働く時間を減らしたりして、自由な時間を確保できます。年金額の減額は、その自由な時間を手に入れるためのコストと捉えることもできるでしょう。

ただし、その選択をするには、減額された年金額でも老後全体の生活設計が成り立つという見通しが前提となります。

他の収入源や資産がある人

年金以外の収入や資産が十分にあり、年金の減額が生活に大きな影響を与えない場合も、繰上げ受給を検討しやすい条件と言えます。

例えば、不動産からの家賃収入や株式の配当金といった不労所得がある人、あるいは退職金や相続財産などで十分な老後資金を確保できている人などです。

そのような経済的余裕がある場合、早期に受け取った年金を趣味や自己投資に活用したり、あるいは資産運用に回して減額分以上のリターンを目指すといった選択も可能になります。

年金に頼らずとも生活が成り立つため、受給開始時期を柔軟に決めることができるでしょう。

繰上げ受給で後悔する人の特徴|避けるべきケース

繰上げ受給はメリットがある一方で、安易に選択すると将来の生活設計に大きな影響を及ぼす可能性があります。

「年金だけでは生活できない」「年金額が少なく取り崩しで貯蓄が底をついた」といった後悔の声も実際に聞かれます。

制度のデメリットやライフプランに対する見通しが不十分なまま手続きを進めてしまうと、後々「こんなはずではなかった」という事態に陥りかねません。

繰上げ受給で後悔しがちな人の特徴と、避けるべき具体的なケースについて解説します。

長生きリスクを考慮していなかった

繰上げ受給をして後悔するケースのひとつとして「想定よりも長生きしてしまい、結果的に生涯の年金受給総額が少なくなってしまう」があります。

繰上げ受給の損益分岐点は、一般的に80歳前後と言われています。つまり、それ以上長生きすると、65歳から満額で受給を開始した方が総額は多くなります。

近年の平均寿命の延びを考慮すると、多くの人がその分岐点年齢を超えて生活する可能性が高いのが実情です。

「早くもらえるから」という短期的な視点だけで判断し、長生きした場合の資金不足リスクを十分に検討していないと、高齢になってから減額された年金で生活が苦しくなるという事態に直面する可能性があります。

在職老齢年金の仕組みを理解していなかった

60歳以降も厚生年金に加入して働く場合、「在職老齢年金」という制度に注意が必要です。これは、給与(正確には総報酬月額相当額)と年金(老齢厚生年金の報酬比例部分の月額)の合計額が一定の基準額を超えると、年金の一部または全部が支給停止される仕組みです。

繰上げ受給で早めに年金を受け取り始めても、働き方によっては年金が支給停止されてしまい、繰上げのメリットが薄れてしまう可能性があります。

ポイントの解説

繰上げ受給を検討する際は自身の働き方の予定と、在職老齢年金の仕組みをセットで理解しておくことが不可欠です。

(参考:在職老齢年金の計算方法|日本年金機構

障害年金や遺族年金への影響を知らなかった

繰上げ受給の判断は、老齢年金だけでなく、障害年金や遺族年金といった他の公的年金との関係性も考慮する必要があります。この点を理解せずに手続きを進めると、本来受け取れたはずの年金を逃してしまう可能性があります。

注意すべきなのは障害年金です。繰上げ受給を開始すると、障害年金の事後重症請求ができなくなります。事後重症請求とは、障害認定日(障害年金の請求が可能となる初診日から1年6ヶ月後の日)より後に所定の障害状態になった場合の請求方法です。原則65歳まで請求可能ですが、繰上げ受給開始後は請求できません。

また、公的年金には「一人一年金」の原則があります。繰上げ受給開始後に遺族年金や障害年金(認定日請求)の受給権が発生した場合、65歳までは老齢年金との選択制になり、両方同時に受け取ることはできません。遺族年金や障害年金を選択した場合、繰上げ受給で年金額は減った上に受給できません。

さらに、寡婦年金(一定の条件を満たした夫が亡くなった場合に妻が60歳から65歳になるまで受け取れる年金)も、繰上げ請求をした時点で受け取る権利が消滅します。

自身や配偶者の健康状態を踏まえ、これらの年金を受け取る可能性がないか慎重に検討することが欠かせません。

(参考:年金の併給または選択|日本年金機構
(参考:障害基礎年金の受給要件・請求時期・年金額|日本年金機構
(参考:年金の繰上げ受給|日本年金機構

繰上げ受給の損益分岐点|何歳まで生きれば得か

年金の繰上げ受給を検討する際に、多くの人が気になるのが「損益分岐点」です。

これは、繰上げ受給をした場合の累計受給額が、65歳から受給を開始した場合の累計額をいつ下回るかを示す年齢のことです。

この損益分岐点を理解することは、ご自身の健康状態や寿命の見通しと照らし合わせ、経済的に合理的な判断を下すための重要な指標となります。

具体的なシミュレーションを交えながら、損益分岐点について詳しく見ていきましょう。

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60歳受給開始と65歳受給開始の比較

繰上げ受給の損益分岐点を、60歳で受給を開始するケースと本来の65歳で受給を開始するケースについてシミュレーションします。

60歳で受給を開始すると、65歳になるまでの5年間、年金を先に受け取ることができます。しかし、年金額は24%減額された状態が一生涯続きます。一方、65歳から受給を開始すれば、満額の年金を受け取ることができます。

年金受給総額を見ると、当初は60歳から受給している人が多くなりますが、65歳以降は満額受給者との差が毎月縮まっていき、いずれ逆転します。この逆転する年齢が「損益分岐点」です。

現在の減額率(0.4%)で計算した場合、損益分岐年齢は80歳11ヶ月となります。

つまり、80歳11ヶ月より長生きする見込みであれば、65歳から受給を開始した方が生涯の受給総額は多くなる計算です。

年齢別の累計受給額シミュレーション

損益分岐点をより具体的にイメージするために、65歳から月額15万円(年額180万円)の年金を受け取れる人をモデルに、累計受給額がどのように推移するかを見てみましょう。

【モデルケース】

  • 65歳受給開始:月額15万円(年額180万円)
  • 60歳受給開始:月額11.4万円(年額136.8万円) ※24%減額

年齢

60歳受給開始の累計額

60歳受給開始の累計額

65歳受給開始の累計額

65歳受給開始の累計額

差額

差額

65歳

60歳受給開始の累計額

684万円

65歳受給開始の累計額

0万円

差額

+684万円

70歳

60歳受給開始の累計額

1368万円

65歳受給開始の累計額

900万円

差額

+468万円

75歳

60歳受給開始の累計額

2052万円

65歳受給開始の累計額

1800万円

差額

+252万円

80歳

60歳受給開始の累計額

2736万円

65歳受給開始の累計額

2700万円

差額

+36万円

81歳

60歳受給開始の累計額

2872.8万円

65歳受給開始の累計額

2880万円

差額

-7.2万円

85歳

60歳受給開始の累計額

3420万円

65歳受給開始の累計額

3600万円

差額

-180万円

90歳

60歳受給開始の累計額

4104万円

65歳受給開始の累計額

4500万円

差額

-396万円

このシミュレーションからも分かるように、80歳代になると累計受給額が逆転し始めます。日本の平均寿命が男性約81歳、女性約87歳であることを考えると、多くの人が損益分岐点を超えて長生きする可能性があります。

この点を踏まえ、自身の健康状態や家族の寿命などを考慮して判断することが鍵となります。

繰上げ受給を検討する際の具体的な判断手順

年金の繰上げ受給は、一度決めると後戻りできない重要な選択です。そのため、感覚や周囲の声に流されるのではなく、自身の状況を客観的に分析し、論理的な手順で判断することが不可欠です。

自分の年金見込額を確認する

判断の第一歩は、自身が将来受け取れる年金額をおおよそ把握することです。毎年誕生月に日本年金機構から送られてくる「ねんきん定期便」や、オンラインサービス「ねんきんネット」で、65歳から受け取れる年金の見込額を確認できます。

まずはこの基本となる金額を把握した上で、繰上げ受給をした場合に、年齢ごとにいくら減額されるのかを計算してみましょう。

具体的な金額を知ることで、繰上げ受給が自身の生活に与える影響を現実的に捉えることができます。

生活費と収入のバランスを整理する

老後の生活に毎月どのくらいの費用がかかるのかを試算し、収入とのバランスを考えます。

  1. 支出の洗い出し:現在の家計簿をもとに、食費、住居費、水道光熱費、通信費、医療費、交際費など、老後も継続して発生するであろう支出をリストアップします
  2. 収入の確認:繰上げ受給した場合の年金額のほか、パート・アルバイト収入、不動産収入、個人年金など、年金以外の収入源もすべて洗い出します
  3. 収支のシミュレーション:算出した支出と収入を比較し、毎月の収支がプラスになるか、マイナスになるかを確認します。もしマイナスになる場合は、貯蓄をいくら取り崩す必要があるのかも計算しておきましょう

この作業を通じて、繰上げ受給によって減額された年金額で生活が成り立つのか、具体的な見通しを立てることができます。

健康状態と家族歴を考慮する

経済的なシミュレーションと並行して、自身の健康状態や寿命の見通しを考慮することも大切です。

健康で長生きする可能性が高いと判断される場合は、繰上げ受給による生涯受給額の減少は大きなデメリットとなります。

一方、健康に不安があり、損益分岐点年齢まで生きられない可能性が高いと考える場合は、繰上げ受給が合理的な選択となることもあります。

繰上げ受給以外の選択肢も検討する

繰上げ受給を検討した結果、「自分には合わないかもしれない」と感じた場合は他の方法を探します。60歳から65歳までの収入を確保する方法は、繰上げ受給だけではないためです。

自身の状況に合わせて他の選択肢を組み合わせることで、より豊かで安定した老後生活を築くことが可能です。ここでは、繰上げ受給以外の主な選択肢を3つご紹介します。視野を広げて、最適なプランを考えてみましょう。

65歳まで働き続ける

一番の選択肢は、65歳まで働き続けることです。高年齢者雇用安定法により、65歳までの雇用確保措置を講じる義務があります。再雇用勤務延長といった形で働き続けることで、65歳で年金を受け取り始めるまでの収入を確保できます。

継続して働くことは、収入面だけでなく、社会とのつながりを維持し、健康を保つ上でもメリットがあります。

注意点

ただし、役職や給与水準は現役時代よりも下がるケースが多いため、その点を考慮した生活設計が必要です。

貯蓄や退職金を活用する

これまで築いてきた貯蓄や、退職金を活用して65歳までの生活費を賄う方法もあります。十分な金融資産がある場合は、無理に繰上げ受給を選択する必要はありません。

資産を取り崩すことに抵抗を感じる人もいるかもしれませんが、65歳から満額の年金を受け取れるメリットは大きいものです。

どのくらいの期間、毎月いくらずつ取り崩せば資産が枯渇しないか、計画的にシミュレーションしてみましょう。

資産運用を組み合わせながら、計画的に取り崩していくことも有効です。

繰下げ受給も視野に入れる

繰上げ受給とは逆に、年金の受給開始を66歳以降に遅らせる「繰下げ受給」という選択肢もあります。繰下げ受給をすると、1ヶ月遅らせるごとに年金額が0.7%増額され、その増額率は生涯続きます。

例えば、70歳まで繰り下げると年金額は42%増え、75歳まで繰り下げると84%も増額されます。65歳以降も働く予定がある人や、十分な資産があり当面の生活に困らない人にとっては、将来の年金額を大幅に増やせる魅力的な制度です。

繰上げ受給を検討する際には、その対極にある繰下げ受給のメリットも同時に理解し、どちらがライフプランに合っているかを比較検討することが望ましいでしょう。

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年金繰上げ受給に関するよくあるQ&A

年金の繰上げ受給を検討する際には、さまざまな疑問が生じるものです。多くの人が抱く疑問について、Q&A形式でわかりやすくお答えします。

繰上げ受給を取り消すことはできる?

一度繰上げ受給の手続きをすると、取り消しや変更はできません

これは一番の注意点の一つです。後から「やはり65歳から満額で受け取りたい」と思っても、減額された年金額を元に戻すことは不可能です。

そのため、繰上げ受給の判断は、将来の変更が効かないことを前提に、慎重に行う必要があります。

繰上げ受給後も働くことはできる?

はい、繰上げ受給をしながら働くことは可能です。実際に、年金収入だけでは不足する分を補うために、パートタイムなどで働き続ける人は多くいます。

ただし、厚生年金に加入して働く場合は注意が必要です。「在職老齢年金」制度により、給与と老齢厚生年金の合計額が一定基準を超えると、年金の一部または全額が支給停止になる可能性があります。

ポイントの解説

個人事業主として働く場合や、厚生年金の適用事業所以外で働く場合は、この制度の影響は受けません。自身の働き方と年金制度の関係を正しく理解しておくことが大切です。

繰上げ受給すると税金や社会保険料はどうなる?

繰上げ受給で受け取る年金も、雑所得として所得税および住民税の課税対象となります。また、年金収入に応じて国民健康保険料や介護保険料も決まります。

注意点として、60代前半は65歳以降に比べて、年金所得に対する税金や社会保険料の負担が相対的に重くなる傾向があります。これは、65歳未満の場合、公的年金等控除額が65歳以上の人よりも少なく設定されているためです。

繰上げ受給を検討する際は、手取り額がいくらになるのかを事前にシミュレーションしておくことが必須です。年金の額面だけでなく、税金や社会保険料が差し引かれた後の実質的な収入を把握した上で、生活設計を立てるようにしましょう。

まとめ

年金の繰上げ受給は、早期に安定した収入を得られるというメリットがある一方で、生涯にわたって年金額が減額されるという大きなデメリットも伴います。「よかった」と感じる方がいる一方で、後悔している方がいるのも事実です。

重要なのは、ご自身のライフプラン、健康状態、経済状況などを総合的に考慮し、メリットとデメリットを天秤にかけて慎重に判断することです。長生きリスクや在職老齢年金、障害年金への影響といった点は、見落とさずに確認しておくべきポイントです。

本記事でご紹介した判断手順や専門家への相談も活用しながら、ご自身にとって最適な選択をしてください。後悔のない、豊かで安心な老後生活を送るための第一歩となるでしょう。

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監修
西岡 秀泰
  • 西岡 秀泰
  • 社会保険労務士/ファイナンシャルプランナー

同志社大学法学部卒業後、生命保険会社に25年勤務しFPとして生命保険・損害保険・個人年金保険販売を行う。保有資格は社会保険労務士と2級FP技能士。2017年4月に西岡社会保険労務士事務所を開設し、労働保険・社会保険を中心に労務全般について企業サポートを行うとともに、日本年金機構の年金事務所で相談員を兼務。

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執筆
マネイロメディア編集部
  • マネイロメディア編集部
  • お金のメディア編集者

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