
年金は追納しない方がいい?専門家が解説!デメリットと知っておきたい年金の増やし方
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国民年金の追納は「将来の年金を増やす制度」と言われますが、すべての人にとって最適とは限りません。
追納には、払った分を回収するまでの年数、年齢による効果の違い、家計への負担などの注意点があります。
また、iDeCoや繰下げ受給との比較といった複数の判断軸があり、場合によっては“追納しない方が合理的”になることもあります。
本記事では、追納の仕組みからメリット・デメリット、損益分岐点など、知っておきたい年金の仕組みを専門家視点で徹底的にわかりやすく解説します。
- 国民年金追納の基本的な仕組み
- 追納のメリット・デメリットと具体的な増額シミュレーション
- 追納しない方がいい人の特徴
- 後悔しないための判断ステップと追納以外の選択肢
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国民年金の追納の仕組み
国民年金の追納制度は、過去に保険料の納付を免除または猶予された期間について、後から納付することで将来の年金額を満額に近づけることができる仕組みです。
まずは、制度の基本的なルールについて確認しましょう。
対象者と条件
追納制度を利用できるのは、国民年金保険料の「免除」や「納付猶予」、「学生納付特例」の承認を受けた期間がある人です。
具体的には、以下のような制度を利用した人が対象となります。
- 保険料免除制度:全額免除、4分の3免除、半額免除、4分の1免除
- 納付猶予制度:50歳未満が対象
- 学生納付特例制度:学生が対象
これらの制度の承認を受けている期間がなければ、単なる未納期間は納付期限から2年以内でないと後から納付することはできません。また、既に老齢基礎年金を受給している場合は追納の対象外となります。
免除・猶予と追納の関係
「免除」と「猶予」は、どちらも保険料の支払いが困難な場合に利用する制度ですが、年金額への反映が異なります。
保険料免除制度を利用した期間は、保険料を納めていなくても、国庫負担分(2分の1)が将来の年金額に反映されます。例えば「全額免除」の場合、国民年金保険料を納付したときの2分の1の年金が保障されます。
一方で、納付猶予制度や学生納付特例制度を利用した期間は、年金の受給資格期間には算入されますが、年金額の計算には反映されません。つまり、追納をしなければ、その期間分の年金額はゼロのままです。
どちらの制度を利用した場合でも、追納を行うことで、老齢基礎年金額を計算する時はその期間を「全額納付した期間」として扱われ、将来の年金額を満額に近づけることができます。
追納できる期間と上限
国民年金保険料を追納できるのは、免除や猶予の承認を受けた月の翌年度から起算して10年以内と定められています。10年という期限を過ぎてしまうと、後から納付したくても一切できなくなります。
例えば、2025年12月時点では、2015年4月分以降の保険料が追納の対象(2015年4月以降に承認を受けた場合)となります。学生時代に利用した特例制度などを「いつか追納しよう」と考えているうちに、期限が過ぎてしまうケースも少なくないため注意が必要です。
追納を検討している場合は、自身の年金記録を「ねんきんネット」などで確認し、追納可能な期間がいつまでなのかを正確に把握しておくことが欠かせません。
追納のメリット・デメリット
国民年金の追納を検討する上で、メリットとデメリットを正しく理解することは不可欠です。
メリット①将来の老齢基礎年金額が増える
最大のメリットは、将来受け取る老齢基礎年金の額を増やせる点です。年金額に反映されない「学生納付特例」や「納付猶予」の期間を追納することで、受給額は増加します。
老齢年金は生涯にわたって受け取れるため、長生きするほど追納の恩恵を受けられます。
メリット②社会保険料控除による節税効果
追納した保険料は、支払ったその年の所得から全額控除できる「社会保険料控除」の対象となります。これにより、所得税と住民税の負担が軽減されます。
所得が高い人ほど税率も高くなるため、節税効果はより高まります。
例えば、課税所得300万円の人が40万円を追納した場合、所得税・住民税合わせて約8万円の税金が軽減される計算になります。
デメリット①まとまった資金が必要になる
追納は過去の保険料を後払いする制度のため、数年分をまとめて納付しようとすると、数十万円単位のまとまった資金が必要になります。
家計の状況によっては、資金を準備することが大きな負担となる可能性があります。
デメリット②古い期間からしか納付できない
追納は、原則として古い期間から順番に納付しなければならず、特定の期間だけを選んで納付することはできません。
これにより、加算金がかかる古い期間から支払う必要が出てくる場合があります。
デメリット③10年の期限を過ぎると追納できない
追納できる期間は承認を受けた月の翌年度から10年以内と決まっています。期限を過ぎてしまうと、たとえ資金に余裕ができたとしても、その期間の保険料を納めることはできなくなり、将来の年金額は減額されたまま確定してしまいます。
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追納はいくらかかる?必要額と家計への影響
国民年金の追納を検討する際、実際にいくら必要になるのかを把握することは大切です。
追納額は対象となる年度の保険料によって異なり、古い年度分には加算額も上乗せされるため、計画的な資金準備が求められます。
追納額の具体例(1年〜10年分の総額シミュレーション)
追納額は、対象年度の国民年金保険料に基づいて決まります。
以下は、2025年度(令和7年度)中に追納する場合の、過去の年度ごとの保険料月額と、年数に応じた追納総額の目安です。
※2025年度中に追納する場合の概算。実際の金額は加算額により変動します
追納する期間が長くなるほど、必要な資金額は増加します。10年分をまとめて追納しようとすると、約200万円という大きな金額が必要になることがわかります。
加算額で高くなる理由(3年超の加算額)
追納する保険料は、免除や猶予の承認を受けた期間の翌年度から数えて、3年度目以降になると「加算額」が上乗せされます。これは、当時の保険料を現在の価値に換算するための、利息のようなものです。
加算額は、時の経過による貨幣価値の変動を調整するために設けられています。昔の保険料は現在のものより安いため、そのままの金額で納付できると不公平が生じる可能性があるためです。
加算額は、追納するタイミングが遅くなるほど高くなる傾向にあります。そのため、同じ期間の追納をする場合でも、できるだけ早く手続きを行った方が、支払う総額を抑えることができます。
追納を決めたら、加算額の負担が少ないうちに実行するのが賢明な選択と言えるでしょう。
追納すると年金はいくら増える?
追納の最大の目的は、将来受け取る年金額を増やすことです。では、実際に追納することで、年金額はどのくらい増えるのでしょうか。具体的な計算方法と、追納しなかった場合との比較を見ていきましょう。
追納による年金増額の仕組み
老齢基礎年金の年金額は、20歳から60歳までに保険料を納付した月数に応じて決まります。2025年度(令和7年度)の満額(480ヶ月納付)は年額83万1700円です。
満額を加入月数の480ヶ月で割ると、1ヶ月あたりの年金額が算出できます。
- 83万1700円 ÷ 480ヶ月 = 約1733円(1ヶ月あたりの年金額)
つまり、保険料を1ヶ月分追納すると、将来の年金額が年間で約1733円増えることになります。1年分(12ヶ月)を追納した場合は、その12倍です。
- 約1733円 × 12ヶ月 = 約2万796円(1年あたりの増額分)
1年分の保険料(約20万円)を追納することで、将来の年金額が毎年約2万円増える計算になります。
増額分は生涯にわたって続くため、長生きするほど追納の効果は高まります。
追納しない場合と比較
学生時代に「学生納付特例制度」を2年間(24ヶ月)利用し、それを追納した場合としなかった場合で、将来の年金受給額がどれだけ変わるか比較してみましょう。
※2025年度(令和7年度)の年金額(満額83万1700円)を基準に計算
追納しなかった場合、満額に比べて年間の受給額が約4.2万円少なくなります。65歳から85歳までの20年間で計算すると、その差は約83万円にもなります。
2年分の追納額は約40万円なので、年金を約10年間受給すれば元が取れる計算です。
追納しない方がいい人の特徴
国民年金の追納は、将来の年金を増やす上で有効な手段ですが、全ての人にとって最適な選択とは限りません。個人の経済状況やライフプラン、価値観によっては、追納しない方が合理的なケースも存在します。
ここでは、追納を慎重に検討すべき人の特徴を解説します。
保険料免除を受けた人
保険料免除を受けた人が追納した場合、追納による年金増額は納付猶予の場合より小さくなります。保険料を納めていなくても、国庫負担分(2分の1)が将来の年金額に反映されるからです。
10年間、全額免除を受けた人と納付猶予を受けた人の年金額を例に、比べてみましょう。残りの30年間は全期間保険料を納付したものとします。それぞれの年金額(年)は次の通りです。
- 全額免除を受けた人:年金額=83万1700円×(360月+120月× 1/2) ÷ 480ヶ月=72万7738円
- 納付猶予を受けた人:年金額=83万1700円×360月÷480ヶ月=62万3775円
上記ケースで、免除期間または納付猶予期間の10年分を追納した場合、どちらも満額の83万1700円を受け取れます。つまり、納付猶予を受けた人の年金増額は20万7925円であるのに対し、全額免除を受けた人は半分の10万3962円に留まります。
追納保険料は約200万円であるため、全額免除を受けた人は20年間年金受給しないと元が取れないことになります。
65歳時の平均余命(2024年は男性19.47年、女性24.38年)を考えると、保険料免除を受けた人には追納するメリットは大きくないと言えるでしょう。
資金余力が少ない/生活防衛資金が不足している人
追納にはまとまった資金が必要です。現在の生活費で手一杯であったり、病気や失業に備えるための生活防衛資金(一般的に生活費の6ヶ月〜1年分)が十分に確保できていない場合、無理に追納することは推奨されません。
将来の年金を増やすことよりも、まずは現在の生活の安定と、万が一の事態に備える手元の現金を優先すべきです。追納はあくまで余剰資金で行うものと捉え、家計を圧迫するような状況であれば見送るのが賢明です。
老後の受給年齢を繰下げる予定の人
年金の受給開始年齢は、原則65歳ですが、66歳から75歳までの間で遅らせる「繰下げ受給」を選択できます。
繰下げ受給をすると、1ヶ月あたり0.7%ずつ年金額が増額され、75歳まで繰り下げると最大で84%も増額されます。
既に繰下げ受給を計画しており、それによって十分な年金額を確保できる見込みがある場合、追納の優先度は相対的に低くなります。
追納に回す資金を、より流動性の高い他の資産運用に充てるという選択肢も考えられるでしょう。
健康状態に自信がない人
追納した保険料は、将来の年金受給を通じて回収することになります。シミュレーションでは、追納額の元本を回収するのに約10年かかります。
健康上の理由などで、長期間にわたって年金を受給できる見込みが低いと考えている場合、追納が「払い損」になるリスクも考慮する必要があります。
自身の健康状態や将来の見通しを踏まえ、元が取れない可能性が高いと判断する場合は、追納を見送るという選択も合理的です。
年金制度の将来性に強い不安がある人(リスク許容度)
少子高齢化が進む中、将来の年金制度が現在のまま維持されるか不透明だと感じる人も少なくありません。
受給開始年齢の引き上げや、給付水準の引き下げといった制度変更のリスクを強く懸念する場合、公的年金である追納にお金を投じることに抵抗を感じるかもしれません。
このような考えを持つ場合は、追納よりもNISAなどを活用し、自分でコントロールできる形で老後資金を準備する方が精神的な安心に繋がる場合があります。
これは個人の価値観やリスク許容度の問題であり、どちらが正しいというものではありません。
専門家が考える「後悔しない追納判断」のステップ
国民年金の追納をすべきかどうかの判断は、多くの情報が必要で複雑に感じられるかもしれません。しかし、順を追って情報を整理すれば、自分にとって最適な選択が見えてきます。
後悔しないための判断ステップを3つに分けて解説します。
①現状の年金見込み額を把握する
最初のステップは、自分自身の年金記録を正確に把握することです。日本年金機構が提供する「ねんきんネット」を利用すれば、これまでの加入記録や、将来受け取れる年金の見込み額を簡単に確認できます。
まずは、この見込み額が、自分の思い描く老後生活の資金として十分かどうかを確認しましょう。これが追納を検討する上でのスタート地点となります。
現状を可視化することで、漠然とした不安が具体的な課題に変わります。
②未納期間と追納額を確認し、損益分岐点を試算する
次に、「ねんきんネット」や年金事務所で、自分が追納できる期間と、そのために必要な総額を確認します。この時、3年度目以降の期間には加算金が上乗せされることも念頭に置きましょう。
追納額が確定したら、その追納によって年金が年間いくら増えるのかを計算します。
そして、「追納総額 ÷年金年額の増額分」を計算することで、何年間年金を受け取れば元が取れるのか(損益分岐点)がわかります。
納付猶予分を追納する場合の損益分岐点は約10年、全額免除分を追納する場合は約20年です。
③ 家計の余力とリスク許容度から“今払うべきか”を判断する
最後のステップは、数字上の損得勘定だけでなく、自身の家計状況や価値観と照らし合わせて最終判断を下すことです。
- 家計の余力:追納のための資金は、生活防衛資金や近い将来のライフイベント(結婚、住宅購入など)の資金を確保した上で、余剰資金から捻出できるか
- リスク許容度:年金制度の将来性への考え方や、iDeCoなど公的年金の代替商品の運用リスクをどう捉えるか
これらの要素を総合的に考慮し、「今、追納すべきか」あるいは「他の選択肢を優先すべきか」を決定します。
このプロセスを経ることで、他人の意見に流されることなく、自分自身が納得できる結論を導き出すことができるでしょう。
追納以外で年金を増やす選択肢
国民年金の追納は老後資金を増やす有力な方法ですが、それ以外にも公的年金制度を活用して将来の受給額を上乗せする方法があります。
自身の状況に合わせて、これらの制度の活用も検討してみましょう。
繰下げ受給
老齢年金の受給開始を66歳以降に遅らせることで、年金額を増やす制度です。
1ヶ月遅らせるごとに0.7%増額され、75歳まで繰り下げると最大で84%も年金額が増えます。長生きに備えたい場合に有効な選択肢です。
iDeCo
iDeCo(個人型確定拠出年金)は、自分で掛金を拠出し、運用商品を選んで老後資金を形成する私的年金制度です。
掛金が全額所得控除の対象になるなど、税制上のメリットが大きいのが特徴です。公的年金に上乗せする形で、より豊かな老後を目指すことができます。
付加年金
国民年金の第1号被保険者が、定額の保険料に加えて月額400円の付加保険料を納めることで、将来の年金額を上乗せできる制度です。
「200円 × 付加保険料納付月数」で計算された金額が、老齢基礎年金に加算されます。
2年間受給すれば元が取れる、コストパフォーマンスの高い制度です。
国民年金基金
自営業者やフリーランスなど、国民年金の第1号被保険者が任意で加入できる公的な年金制度です。老齢基礎年金に上乗せする形で、より手厚い老後保障を準備できます。
掛金は全額が社会保険料控除の対象となり、節税しながら将来の年金を増やせるメリットがあります。
まとめ
国民年金の追納は、将来の年金額を確実に増やし、社会保険料控除による節税もできるため、経済的には合理的な選択肢です。約10年で元が取れる計算(全額免除の場合は約20年)となり、長生きリスクに備える有効な手段と言えます。
しかし、すべての人にとって最善の選択とは限りません。現在の家計状況、将来のライフプラン、そして年金制度に対する個人の価値観などを総合的に考慮する必要があります。
「追納しない方がいい」という意見も、個々の状況によっては一理あるのです。
大事なのは、他人の意見や漠然としたイメージで判断するのではなく、まずは「ねんきんネット」でご自身の現状を正確に把握することです。
その上で、本記事で解説した判断ステップを参考に、ご自身にとって後悔のない選択をしましょう。
まずは、老後にいくら必要で、今のままでどれくらい不足するのかを整理してみましょう。そのうえで、追納・貯蓄・運用のどれを選ぶか判断することが重要です。
3分投資診断なら、老後必要額・不足額・あなたに合う資金の備え方を自動で算出。年金追納を「する/しない」の判断を、感覚ではなく根拠で行えます。
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監修
西岡 秀泰
- 社会保険労務士/ファイナンシャルプランナー
同志社大学法学部卒業後、生命保険会社に25年勤務しFPとして生命保険・損害保険・個人年金保険販売を行う。保有資格は社会保険労務士と2級FP技能士。2017年4月に西岡社会保険労務士事務所を開設し、労働保険・社会保険を中心に労務全般について企業サポートを行うとともに、日本年金機構の年金事務所で相談員を兼務。
執筆
マネイロメディア編集部
- お金のメディア編集者
マネイロメディアは、資産運用に関することや将来資金に関することなど、お金にまつわるさまざまな情報をお届けする「お金のメディア」です。正確かつ幅広い年代のみなさまにわかりやすい、ユーザーファーストの情報提供に努めてまいります。
